エルネスト・チェ・ゲバラが司令官としてゲリラ活動をしていたボリビア東南部で1967年10月に国軍に処刑される1か月余前に、ゲリラの後衛隊にいたボリビア生まれの日系二世フレディ前村が軍の待ち伏せ攻撃で負傷し捕らわれ、拷問された末に射殺されている。本書はフレディの姉、その夫と息子が彼の足跡を追い、その生き様を世に知らしめるべく纏めた記録である。
日本人ペルー移民の父がアンデス山脈を越えてボリビアに入り、北部ベニ州で商業を営み結婚して生まれた生い立ちから始まり、多感な高校生時に共産党に入党し、医師をめざしていたが、キューバ政府の奨学生制度を知り留学。そこで1964年に祖国で農地改革、錫鉱山国有化等の革命を推進していた政権が軍事クーデタで倒されたことを知り、ゲバラのラテンアメリカ解放思想に賛同して家族にも知らせず密かに帰国し、ゲバラとともに転戦するが、ボリビア共産党や農民の賛同・支援は得られず、徐々に米国の軍事援助を受けたボリビア軍に追い詰められ死に至るまで、そして遺された家族が代々の軍事政権から執拗な迫害を受け続けたこと、しかし姉と夫、その長男がキューバとボリビアでのフレディの行動を長年調査し、遺体の発見と引き渡しを求め続けてきた経緯を詳細に綴っている。
本書は同じ著者、訳者、監修者によって2009年に長崎出版から刊行された『革命の侍 -チェ・ゲバラの下で戦った日系二世フレディ前村の生涯』( https://latin-america.jp/archives/5731 )を改題し、本文も全面的に改稿したものである。なお、フレディが留学時にあったキューバ危機の体験、ゲバラとの出会いから「ラテンアメリカ人」として目覚め、抑圧された人々の解放という目的に向かって共に戦う姿を描いた映画『エルネスト』が日本・キューバ合作で制作され、2017年10月に日本でも上映された。阪本淳治監督、オダギリジョー主演、タイトルはフレディがゲリラ名を尊敬するゲバラにあやかって「エルネスト・メディコ(医者)」と名乗ったことから付けられた。
〔桜井 敏浩〕
(伊高浩昭監修 松枝愛訳 キノブックス 2017年9月 331頁 1,800円+税 ISBN978-4-908059-80-3 )