「ブラジル現代文学コレクション」の2巻目は、世界で最も知られたブラジルの小説家であるアマード(1912~2001年)の単・長編2作。アマードは、故郷の東北地方のバイア州を舞台に前半は時代を反映して政治色の強いプロレタリア小説を書いてきたが、後半は政治臭が無くなり本書のようなユーモア、民衆との一体感を基調とするブラジル色の濃い小説を発表した。
『キンカス・ベーホ・ダグアの二度の死』は、バイア州の州都サルヴァドールの海に身を投げて死んだという愛称キンカスの棺を前に集まった近親、友人たちの虚実をないまぜにした会話が飛び交う。『遠洋航海船長ヴァスコ・モスコーゾ・ジ・アラガンの物議をかもした冒険談についての紛れもない真実』は3話から成り、郊外のペリペリの町でヴァスコが退職した船長を名乗り冒険談と功績を語り町の名士になるが、これまで名士だった税務官シッコが元船長という身分を怪しむ。シッコが調査したヴァスコの半生は、遠洋航海船長の免許状をかろうじて取得したものの、財産を減らしてこの町に移ってきたものであった。次第に彼が船長だったことさえ怪しむ人が増えてきたところで、緊急入港した沿岸航路船の急死した船長に代わりヴァスコに北のアマゾン河口の都市ベレンまで船の指揮が依頼される。ヴァスコ船長は船客たちに冒険談を語り、それに魅せられた一人旅の女性と恋愛・結婚話にまで進むが、ベレン入港時の繋留の不手際で馬脚を現し婚約の話も破綻する。しかしヴァスコはその夜襲来した暴風雨への対処で汚名をそそぎ、ペリペリに意気揚々と戻ることが出来た。
アマードの広い見聞、見識、当時の政治状況を含む考察が随所にエピソードとして散りばめられ、さすが文豪ならではの味わい深い小説となっている。
〔桜井 敏浩〕
(高橋都彦訳 水声社 2017年11月 372頁 3,000円+税 ISBN978-4-8010-0292-0)
〔『ラテンアメリカ時報』2018年春号(No.1422)より〕