バナナの輸出は、生産において中小土地所有者がそれなりに重要性をもつコーヒーやサトウキビと違って、労働集約的な大型プランテーションによる大量生産品が国際市場を席巻してきた。1874年にコスタリカの軍人独裁者と組んでコーヒー生産地と港を結ぶ鉄道建設を請け負った米国人マイナー・キースは、工事遅延で財政的に窮し副次的な事業にすぎなかったバナナ産業に注力するようになり同国大西洋岸に広大な土地を手に入れて、当時カリブ海地域産バナナを米国市場に持ち込んだボストン・フルーツ社と手を結び、1899年にユナイテッド・フルーツ(UFCO)を設立した。
独裁的な政権を抱き込んで中米の安価な土地を取得し、貧しい先住民農民を低賃金で酷使し、自社が支配する鉄道、海運で輸送路も独占することで、1930年までにグアテマラ、ホンジュラス、コスタリカ、パナマからコロンビアにまたがる「バナナ共和国」(実態は「帝国」と呼ぶのが相応しい)を築いた。農民の不満、抵抗は1930~40年代に各国で登場した右派軍事政権をして弾圧させ、50年代に米国歴代政権が反共をその中南米政策の最優先課題としたこともUFCOの特権維持を利し、その「ジャングル・キャピタリズム」即ち弱肉強食の資本主義手法を謳歌した。しかし、バナナを襲う病原菌によるパナマ病の拡大、同病を免れたエクアドルへの進出を拒まれたこと、中米各国における農民を含む労働条項改革要求の高まり、そして1959年のキューバでの革命の成就は、社有地没収のみならずUFCOにとって決定的なダメージとなった。その後デルモンテ社などの強力なライバルが台頭、ハリケーンによる大被害や病害などが続き圧倒的な勢力は衰退して、UFCO自身は同業に買収されたが、その買収米国企業はフィリピンに進出し、日本市場でも大きなシェアを持っているのである。
著者はBBC(英国国営放送)の中米・メキシコ特派員を務めたジャーナリスト。『先住民と国民国家-中央アメリカのグローバルヒストリー』(有志舎 2007年)や『コーヒーのグローバル・ヒストリー -赤いダイヤか、黒い悪魔か』(ミネルヴァ書房 2010年 https://latihttps://latin-america.jp/archives/5768 )の著書もある訳者の小澤卓也神戸大学大学院教授による58頁の詳細な「バナナが中米社会を変えた」と題する解説と訳注が付いており、バナナ流通を軸にした現代南北アメリカ史としても、バナナ、そしてUFCOが中米社会にもたらした変化を知る上でも、興味深い壮大な歴史、グローバルヒストリーとなっている。
〔桜井 敏浩〕
(小澤卓也・立川ジェームズ訳 ミネルヴァ書房 2018年5月 344頁 3,500円+税 ISBN978-4-623-08331-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2018年夏号(No.1423)より〕