『ウルフ・ボーイズ -二人のアメリカ人少年とメキシコで最も危険な麻薬カルテル』 ダン・スレーター - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ウルフ・ボーイズ -二人のアメリカ人少年とメキシコで最も危険な麻薬カルテル』  ダン・スレーター


 1986年にテキサス州のメキシコ国境にあるラレドの貧しい家庭に生まれた米国人少年ガブリエル・カルドナは、高校時代はアメリカン・フットボールの選手として人気があったほどだが、高校をドロップアウトしささいなことからメキシコに数多くある麻薬犯罪組織の中でも最も危険なカルテルと言われる“ロス・セタス”に関係し、組織の「仕事」として殺人を重ねる中で次第に頭角を表すが、ついに仲間の少年とともに逮捕されティーンエージャーゆえに実質的な終身刑に服することになる。米国の青少年がメキシコの麻薬組織の手先になって重罪を言い渡されたことは、米国民に衝撃を与えた。
 一方、メキシコ生まれで米軍勤務の後にテキサス州の警官になったロバート・ガルシアは、米国政府が自国内の麻薬に対する根強い需要の存在には無関心で、大物犯罪者とは司法取引で軽い罪にしながら、末端の密輸や販売に携わる小者の逮捕数や氷山の一角である麻薬・薬物の押収量を誇るだけの取り締まり、捜査費用を麻薬マネーの押収金に依るなど、当局にとっても終わっては困る麻薬戦争は、勝者のいない壮大な捏ち上げだと疑問をもっている。
 本書はこの立場の相反する二人の人生と生き様を丹念に追いながら、麻薬取り締まり、密輸、贈収賄をはじめとする汚職の歴史、それに因って拡大している米・メキシコ国境地帯の矛盾や不均衡、未だに出口が見えないメキシコの麻薬戦争を、麻薬組織の末端で利用された若者とかれらを追う取り締まり側の双方の姿から描いている。著者は『ウォールストリート・ジャーナル』紙の元記者で有力紙・誌に寄稿しているジャーナリスト。
                               〔桜井 敏浩〕

(堀江里美訳 青土社 2018年3月 405頁 2,400円+税 ISBN978-4-7917-7050-2 )

 〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕