これまで4巻が出ている武田千香東京外語大教授編集の「ブラジル現代文学コレクション」の最新刊。1969年から21年間続いた軍事政権は、大衆には「偉大なるブラジル」「進歩し続ける国」という肯定的イメージを宣伝したが、本書はその意に添わない「表面的な解釈では、エロティックでポルノグラフィ的なものと烙印を押してしまうであろう」と代表的週刊誌“Veja”の書評に書かれたとおり、1976年に政府は猥褻性による「公序良俗」違反、社会的暴力の誘発を理由に発禁処分に処した。
リオデジャネイロを舞台にした15編の短編から成り、表題作は富裕層宅での大晦日のパーティを襲った残忍な強盗グループの行為を通じて高度経済成長の恩恵の格差を、「夜のドライブⅠ、Ⅱ」と「他者」は企業の重役を主人公に、社会と他者との関係性の構築を否定した自己中心的に暴力行動にはしる姿を描くことで、下層階級・低学歴者の経済的不平等格差による教育格差、社会のコミュニケーションの対立・断絶を問題提起している。「大腸」は排泄に結びつくものとして清潔でない器官とのイメージから、そういったものを描くのは“ポルノグラフィ”作品と言われるが、身体の理解は暴力行為の回避に繋がり表現の自由が必要との持論をもつ老作家へのインタビューの形をとって、著者の多元的な視点への価値観を主張している。
著者は、1925年生まれで8歳の時にリオデジャネイロ市に移り、1951年から58年の間リオデジャネイロ州警察で働き、民間電力会社に転職してから演劇・映画シナリオを書いて作家デビュー、会社重役にまでなったが79年以降作家業に専念し、ベストセラー作家の評価を得た。
(江口佳子訳 水声社 2018年11月 257頁 2,500円+税 ISBN978-4-8010-0295-1)
〔『ラテンアメリカ時報』2018/19年冬号(No.1425)より〕