メソアメリカで栄えたマヤ文明では独特の絵文字体系があり、西暦3~10世紀かけて使われていた。同じ米州大陸に展開したインカ等のアンデス文明においては文字がなかったのに対して、このマヤ文字の存在は考古学や人類学、民族学調査の成果と相俟ってマヤ文明を解明する大きな手懸かりとなっている。16世紀にスペイン人がこの地を征服した後にもマヤ文字の読み書きは断片的ながら伝承されていたが、スペイン植民地の支配者やカトリック教会によって多くの資料が焚書等で処分され読める者は途絶えていた。しかし、この100年以上の間マヤ文字体系が多くの研究者によって解読が進められ、現在ではかなりの部分が解読されるようになってきている。
著者はマヤ文明史を言語学・文字学から取り組んできた、わが国でのこの分野の第一人者の国立民族学博物館名誉教授で、本書は2005年に同じ出版社から刊行したものの新装版である。
古代マヤ文明の歴史と文字、マヤ文字の構成、種類や字体・書体などの特徴、音節・表意文字、音声補助符、数字の解説から説き起こし、読者がマヤ文字に親しめるよう自分の名や地名を「マヤ文字を書いてみよう」から始め、漢字の偏・旁のような部品を組み合わせるのと似た原理を理解し、暦・方角・人名・王名・神や動物、動詞を表す文字を知ることによって「マヤ文字を読んでみよう」から現在提案されている読み方を利用して「マヤ文字を解読してみよう」と進め、読者がこの“美しいマヤ文字”を理解する第一歩に近づけるように工夫されている。5つのコラムでは、音節文字の発見、文字枡、マヤ文字解明の現状とマヤ語の文法についても簡単に解説がなされている。一見奇怪な図像を並べたように見えるマヤ文字が、日本語と同様に表意文字と表音文字の両方から成っていることを知ると、あらためて親しみを感じるマヤ文字の入門書といえよう。
〔桜井 敏浩〕
(白水社 2019年1月 125頁 2,400円+税 ISBN978-4-560-08820-3 )