長く国立民族学博物館でアンデス高地のジャガイモ栽培等農牧状況の調査を行い、近年はヒマラヤ等の他の大陸の高地との比較も研究している編者(現 同館名誉教授)をはじめとする9名のアンデス、ヒマラヤ、エチオピア等アフリカ文化人類学者による熱帯高地研究成果を、一般国民にも理解しやすい報告をという意図で纏められた総合的な解説書。
編者による「序章 熱帯高地とはどのようなところか」は、そこでの人間の居住・生業、環境維持と今後の姿の解説から始まり、「第1部 地域研究」は、アンデス高地でリャマ・アルパカを飼う牧民の生活(鳥塚あゆち 青山学院大学助教)、熱帯アンデス高地での先スペイン期以来の環境利用(編者)、メキシコ高地での環境認知と文化の多様性から古代文明が形成された歴史(杉山三郎 愛知県立大学名誉教授)を、「第2部 地域間比較研究」では、アンデスとヒマラヤの事例から熱帯高地における野生動物の家畜化と利用(川本芳 日本獣医生命科学大学客員教授)、移動と資源化に着目した移牧と定農(稲村哲也 愛知県立大学名誉教授)を、「第3部 高地文明論」では、エチオピアとブータン、チベット、イランでの高地文明成立を考察し、「終章 高地文明の発見」では、編者がなぜ人は高地でも暮らすのかを考察し、従来の旧大陸四大文明=大河文明という定義が近年の水利用の調査研究で揺らいできている中で、編者ら新大陸文明研究者は大河がなく熱帯高地に栄えたメキシコ、中央アンデス、それにチベット、エチオピアの宗教、農牧生業、地域における共通点を調査することによってこれら地域は高度な高地文明があったと位置づけることが出来るとしている。
〔桜井 敏浩〕
(ナカニシヤ出版 2019年2月 435頁 6,800円+税 ISBN978-4-7795-1374-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕