『メキシコDF テクストとしての都市』 柳原 孝敦 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『メキシコDF テクストとしての都市』 柳原 孝敦


 多くの文芸・映像作品や文献などから時空を超えて読み説いたテクスト論として、2016年に正式にCDMX(メキシコ市)の呼称が採用されるまでDF(連邦首府)と呼ばれたメキシコの首都を、ラテンアメリカ文学の訳書も多い人文科学者(東京大学大学院人文社会系研究科教授)が、多層な視点から都市論的手法で綴った思索の旅。
 征服者コルテスが襲来したアステカの都テノチティトランを思い起こし、大気澄み渡るアナワク(現国際空港に近い地区)から、メキシコ植民地支配の詩情が地下から溢れ出るソカロ、1968年に起きた学生運動を凄惨に鎮圧した記憶の遺るトラテロルコ三文化広場、巡礼地グアダルーペ聖母聖堂、旧市街の市場もあるメルセーとテピート地区、南部の新市街で女流画家にして壁画画家ディエゴ・リベラの妻フリーダ・カーロの青い家のあるコヨアカン、その少し西のサン・アンヘルは1961年にやってきたガルシア=マルケスが『百年の孤独』を執筆した街、そして再びセントロに戻り、レフォルマ遊歩道やアメラダ公園界隈を逍遥するが、それぞれの街に関わる実に多くの文学者、詩人、画家などの芸術家が思い起こされ語られており、著者の知見の広さを堪能することができる。

〔桜井 敏浩〕

(東京外国語大学出版会 2019年11月 269頁 1,900円+税 ISBN978-4-904575-78-9 )

 〔『ラテンアメリカ時報』 2019/20年冬号(No.1429)より〕