『お話の種をまいて -プエルトリコ出身の司書プーラ・ベルプレ』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『お話の種をまいて -プエルトリコ出身の司書プーラ・ベルプレ』


1899年にプエルトリコの農村部で生まれ、Abuela(祖母)から民話を聞いて育ったプ―ラは、1921年にニューヨークに移住し、ニューヨーク公共図書館のハーレム地区にある分館で助手として働くようになった。本棚にスペイン語の本、プエルトリコの民話本が1冊も無かったことから、子どもたちにプエルトリコの民話という種をまいて育てる聞かせる活動を始め、手作りの人形を使った英語とスペイン語での人形劇を催した。そして、本でも読んでもらうべく、美しく上品なゴキブリの娘マルティーナがいろいろな動物の求婚者の中から最後にかろやかな声が素敵だったネズミのペレスと結婚するという民話を書き留め出版社に送って本にすることができ、その後いくつもの民話を元に作家となって、図書館司書、作家、人形づかい、民話の語り手として活躍した。音楽家との結婚後も夫の演奏旅行に同行しお話する活動は続け、夫の死後1961年に図書館に戻ってきた時に、語り手たちが人形にダンスを踊らせ、彼女が書いた民話の本が読み聞かされているのを見た。プーラがまいたお話の種は根をおろし可能性の芽を育んでいたのである。

それまでスペイン語圏出身者は米国の図書館は自分たちの場所ではないと考えていたのをあらため、晩年まで各地に魅力的なお話と人形劇を子どもたちに届けた彼女にちなんで、1982年の死後、米国図書館協会は毎年優れた児童文学作品を書いたラテン系作家・画家を表彰する「プーラ・ベルプレ賞」を創設した。

著者はプエルトリコ出身で現在は米国在住の絵本作家、絵はコロンビアのイラストレーターでともに女性による児童向け絵本。作者についての解説、この本に書名が出てくるプーラの民話4点の簡単な解説が付されている。

〔桜井 敏浩〕

(アニカ・アルダムイ・デニス作、パオラ・エスコバル絵 星野由美訳 汐文社 2019年2月 36頁 1,800円+税 ISBN-978-4-8113-2589-7 )