講演会報告「ブラジルの最新情勢と今後の展望」(2020.2.25開催) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

講演会報告「ブラジルの最新情勢と今後の展望」(2020.2.25開催)


【演題】「ブラジルの最新情勢と今後の展望」
【講演者】山田 彰 駐ブラジル日本国大使
【日時】2020年2月25日(火)15:00~16:30
【場所】田中田村町ビル 会議室8E
【参加者】84名

山田 彰 駐ブラジル日本国大使をお招きし、ブラジルの政治・外交・経済についてご講演いただきました。講演の要旨は以下の通りです。

【政治情勢】

・2018年10月の大統領選挙でボルソナーロ候補が当選した背景には、汚職捜査による多数の政治家・有力企業家の訴追、コンプライアンス重視の企業文化と政治倫理への期待感、国民の政治不信がある。選挙運動にSNSを上手く利用したボルソナーロ氏の戦略も奏功。治安に対するアピールが国民に響いたことなども勝因と考えられる。選挙中は極右のレッテルを貼られたが、実像は急進的な右派。日系社会とも近く親日家である。

・現政権は主要ポストの約3割は軍出身者。ブラジルの軍は国際性が高く、組織も安定している。専門性を持ち成果重視のテクノクラート派にはパウロ・ゲデス経済大臣や、汚職捜査で注目されたセルジオ・モーロ法務・治安大臣がいる。

・この1年の最大の成果は年金制度改革だろう。2019年10月に受給開始年齢(男性65歳、女性62歳)の導入等を内容とする年金制度改革法が成立した。また治安対策では2019年12月に犯罪対策法が成立。犯罪は減少傾向にある。

・議会と政権の関係には課題が残る。ボルソナーロ大統領と所属政党・自由社会党との関係が悪化し大統領は離党、与党は分裂した。大統領は新党「ブラジルのための同盟(APB)」結成を表明した。

・外交ではアマゾン火災や環境問題を巡り欧州との軋轢が生じている。ボルソナーロ大統領は米国、イスラエルとの関係を重視している。

【経済情勢】

・経済は成長率が伸び悩み2019年は1.2%(中銀予測)。2020年の成長(2.2%予測)に期待がかかる。元投資銀行家のゲデス経済大臣の役割が重要。

・メルコスールのFTA(自由貿易協定)は2019年6月にEUと交渉、8月に欧州自由貿易連合(EFTA)との交渉が実質合意。カナダ、韓国等との交渉も進展している。

【日本との関係】

・2019年にはボルソナーロ大統領と安倍首相が3度会談を行うなど、日本との関係は良好。日本・メルコスールEPAは双方の産業界とメルコスール側から締結への期待が高まっているが日本側がまだ踏み切れない状況にある。

・日本とブラジルはスポーツ交流も盛んで2020年2月にスポーツ分野・柔道に関する協力覚書を締結。柔道を学校のカリキュラムに導入するプログラムも進行中だ。リオのサッカークラブ・ボタフォゴに入団した本田圭祐選手や、柔道のブラジル男子代表監督・藤井裕子氏への期待も大きい。

・2020年は在日ブラジル人コミュニティ30周年を迎えた。ブラジルには日系人が約200万人おり、日系人数は世界最大だ。両国には深い人的絆があり、あらゆる分野で双方向の交流を促進している。

 講演後、出席者との質疑応答が行われ、イスラエルとの関係、南米横断鉄道、メキシコとブラジルの外交の違い、アルゼンチンの政権交代によるメルコスールEPAへの影響、ブラジル国内の福音派(エバンジェリコ)の存在、ブラジル日系人の若者について、OECD加盟、アマゾン先住民とアマゾン開発についてコメントをいただきました。

発表資料

講演会発表資料「ブラジルの最新情勢と今後の展望」(2020.2.25開催)