探検史概説のいわば図版資料集とも言うべき地図の歴史。紀元150年のプトレマイオスの地図から始まり、13世紀のマルコ・ポーロの往来によって中央アジアと東アジアの事情がかなり判って16世紀までの間には欧州人による極東の“発見”があった。一方ポルトガル人はアフリカ西岸に沿って南下しインド洋を渡ってインド諸国への航路を拓いた。これに刺激されたスペインはコロンブスの西回り航海でインドに行けるという計画に資金を出しアメリカ大陸に到達したのをきっかけに、「香料諸島」を目指してスペイン、ポルトガルをはじめ西欧人が南北アメリカに赴いたが、その初期の段階ではアメリカはアジアもしくはその近くまで到達したと信じられたのである。16世紀には輩出した探検・航海者たちによって南北アメリカ大陸の広範な地図が制作されはじめ、他方北極圏をまわってアジアに到達しようという試みも始り、ベーリング海峡まで確認され、北極圏の南と北米の間を通る北西航路の開拓も試みられた。一方、太平洋の「南の海」についても、バルボアがパナマ地峡で太平洋を初めて実見し、マゼランの船隊が苦い経験の末に世界一周を果たした後に、スペイン領メキシコから出した探検隊がフィリピンを植民地とした。
大航海時代以降の世界各地での探検史を、地図の発達の諸相によって分かりやすく記述した優れた読み物。せっかく著者が集めた220もの挿入地図がカラーでないのが実に惜しまれる。
〔桜井 敏浩〕
(筑摩書房(ちくま学芸文庫) 2019年12月 471頁 1,600円+税 ISBN978-4-480-09960-0 )