ペルーとボリビア国境の標高3,810mにある大湖ティティカカのペルー側の町プノ湾に、トトラ(葦)を刈り定期的に積み上げて作られた浮島ウロス島がある。住民はトトラの舟で移動し、漁撈と交易を生業にしていたが、浮島が観光化していく過程で人々の生活は大きく変化し、土地問題、移動、先住民をめぐる国家との関係等で問題が生じている。
本書ではまず、ペルーの地理的概況の中で土地問題、移動、先住民をめぐる問題構成を整理し、浮島が土地闘争の一大中心地であった湖岸一帯の歴史的特質、湿地帯に暮らす移動民の自治運動の展開、移動する浮島という独自圏域としての水上交通の再編、浮島の観光化と交易活動の再編を貨幣系の流れから見て、さらにペルーの国民登録制度、徴兵など、近代国家による浮島生活者への介入、観光客が持ち込んだ貨幣による眩惑とフジモリ政権下での国家主導によるマイクロクレジットの普及、浮島における自然資源利用と保護区管理など、人々は主体的に縛られ身動きが取れなくなってきた実態を明らかにする。
部外者には警戒感が強いボリビアの人々の中に入り込み、2004~10年の間断続的に9世帯と寝食を共にし、周辺の人たちからも聞き取りしてまとめた、浮島をめぐる人々の生活の変化を異なる視点から解析した労作。全ページ上質紙を使い写真、図版も見易い。著者は、ラテンアメリカ地域研究者で京都大学、滋賀大学等非常勤講師。
〔桜井 敏浩〕
(京都大学学術出版会 2020年3月 408頁 4,800円+税 ISBN978-4-8140-0267-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕