連載エッセイ53:「南米南部徘徊レポート」その8 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ53:「南米南部徘徊レポート」その8


連載エッセイ52

「南米南部徘徊レポート」その8

執筆者:硯田一弘 (アデイルザス代表取締役、パラグアイ在住)

3月7日発 アルゼンチンとパラグアイの国境

今週は所用でアスンシオンの隣町であるアルゼンチンのクロリンダに行ってきまた。と言っても、直線距離で僅か10㎞程度(実際にはアスンシオン北西の橋を渡るので40㎞)の田舎街ですが、下の航空写真でお分かりの通り、ピルコマヨ川を境にパラグアイと国境を接していることになっていて、橋の向こうとこっちで活発に荷物の往来が行われています。

向こう側はパラグアイ。何でも売ってる雑貨屋だけでなく、歯医者の診療所もあります。東の街Ciudad del Esteの小型版という風情。一方、アルゼンチン側は、大した店はなく、農産物やワインなどが税関を通らずにパラグアイ側に運び込まれます。
関税が安く工業製品が豊富なパラグアイと、農産物の安いアルゼンチンの国境では、国が管理しきれないレベルの物流が発生していて、現時点では違法な取引も多分にある訳ですが、こうした悪しき流れも国家間の経済連携協定の進捗によって自然に解消するのが好ましいと思われます。そうすれば、資金洗浄だの違法な国境超えも無くなるわけです。

3月14日発信 新型コロナウイルスに対するパラグアイ政府の対応

三週間前にepidemia=流行病をご紹介した際には、パラグアイでは専らデング熱の話題が身の回りの危険と語られていましたが、ついに当地でも新型コロナの患者が出たことにより、ガラリと雰囲気が変わり、11日から15日間にわたって学校を休校として集会等も差し控えるよう政府からの通達が発表され、実施に移されました。

↓新型コロナ対策を発表するマリオ・ベニテス大統領と主要閣僚

学校が休校になったことで市内は渋滞が減って静かになりましたが、他の国でのトイレットペーパー騒動等のパニック報道が届くにつれ、パラグアイでもモノ不足に対する不安が出てきました。更には13日にIPS社会保険庁病院での医療用マスクと消毒用アルコールの不足を伝えるニュースが流れると、一部の薬局やスーパーに消費者が殺到する事態が発生したとの噂が伝わって来ました。
https://www.lanacion.com.py/pais/2020/03/13/covid-19-denuncian-falta-de-alcohol-y-tapabocas-en-el-ips/

しかし、直ちにこうした動きに対応した処置がなされ、スーパー協会が営業時間を深夜12時まで延長することを発表したほか、マスコミ各社も市場に混乱が発生していないことを報じた結果、事態は直ちに沈静化しました。
https://www.ultimahora.com/volvio-la-calma-supermercados-y-anuncian-que-no-faltaran-productos-n2874859.html

実際に昨日と今日の両日、近所のスーパーに立ち寄りましたが、レジ係がマスクをしている店がある一方で、普段と全く変わらない店もあって安心しましたし、薬局はどこも普通に営業されていました。ただ、今日訪れたドイツ系のスーパーでは入口で体温検査が行われ、石鹸とウェットティッシュのプレゼントを渡されて得した気分になりました。

日本を皮切りに米国でまで品薄が報じられたトイレットペーパーや消毒ジェルの棚も確認しましたが、どの棚も潤沢に商品が置かれており、先進各国の様な不便や不安を煽るような光景は見られませんでした。因みに衛生用品の多くはパラグアイの国産品が流通しており、700万人の人口の国において深刻な欠品が発生する懸念は極めて低いであろうことが再確認できました。紙の原料となるパルプは豊かな林業に支えられており、またアルコールもトウモロコシなどから燃料用アルコールを作る工場が最近次々に建設されており、いざとなった場合には燃料用が衛生用に転換可能だということも判りました。ただ、デング熱との闘いも終わったわけではなく、久々に熱波がぶり返してきた今週から来週にかけては蚊対策もしっかりと行うべきで、ぬかりない健康対策が引き続き求められます。

3月21日発信 矢継ぎ早に出されたコロナ対策

先週、パラグアイでもコロナ騒動が始まったことをお知らせしましたが、一旦防疫に関する施策が始まると、矢継ぎ早に隔離政策が打ち出されて些か戸惑う一週間となりました。先ずはブラジル・ボリビア・アルゼンチンとの国境の移動制限を導入、16日月曜日から夜8時から朝4時までの外出自粛令が出され、Casi Toque de Queda(夜間外出禁止令ではないが、殆どそれに近い)との説明とともに、違反者には罰金(最高約70万円)や禁固刑が科されるとの通達が発せられました。

同時にツイッターで大統領自らが#Quedate en casa(家に留まってください)というメッセージを発信し、閣僚のみならず多くの人達が感染防止に協力して自宅に留まるようにとリツイートしました。

更に金曜日にはパラグアイでもコロナの死者が発生したことを受け、夜間だけであった外出禁止を3月21日から28日まで終日摘要とし、夜間外出の禁止も4月12日までは実施を続けるとの大統領令が発せられました。

外出禁止令が出た今日、拙宅周辺を歩いて状況確認をしました。(この程度の行動は制限されていません。)クルマの量も普段ほどではないにせよ、一定数の交通量が認められましたが、店舗は完全に閉鎖されており、スーパーと薬局、ガソリンスタンドと併設の店舗、銀行のATMのみが運営されていました。昼のニュースを観ると、アスンシオン郊外で行われている検問では、行楽に向かうクルマが依然多く走っており、インタビューを受けた警察官は「大統領令の重要性をもっとしっかり認知して欲しい」と嘆いていましたが、ニュースの取材の間は逮捕者が出ている様子は見られませんでした。

昨日は一週間の籠城の為に近所のスーパーに買い出しに行きましたが、入店制限が行われていて、行列する人の間隔を1.2m以上空けるようにとの指示が出ていて、今まで見たことの無いユニークな行列風景を目にしました。

また、各店舗の入り口には臨時の手洗い場所が設けられ、検温を行った上改めてアルコールジェルで除菌した上で入店が許可されるという徹底ぶり。

3月29日発信 完全外出禁止令の公布

新型コロナCOVID-19予防対策としての完全外出禁止令は、先週土曜日3月21日から今日28日まで、という事で発せられ、パラグアイでは感染者数が50例を超えた一方、治癒したケースも報告されたものの、欧米での感染拡大という状況を鑑み、外出禁止の隔離措置は二週間延長されて4月12日までと発表されました。正直言って「まだ続くの?」という感じです。
https://www.ultimahora.com/covid-19-gobierno-retrocede-y-aislamiento-total-seguira-el-12-abril-n2877311.html

日本では花見禁止とか外出自粛と言われていますが、パラグアイでは正に不要不急の外出をとがめられると逮捕されて拘留されるか多額の罰金を科せられます。


慢性渋滞(上)のブラジルとの国境「友情の橋」もこの通り(下)

外出が規制されるとストレスがたまるというのは日本でも報道されていますが、パラグアイでは毎晩8時になると一斉に庭やベランダに出て医療関係者への敬意を表して拍手をしてコロナとの闘いを称賛しています。Aplausos Sanitariosというこのアクション、世界中で決まった時間に行われているようで、ストレスの解消にも少しだけ役立っています。 

一方で、毎日の売り上げが全くなくなった中小の小売業者や飲食関係の業界で、人員削減の動きが発生している上、多くの事業所が給与の削減を発表しており、経済活動への影響が数多く報告されています。これは民間に限ったことではなく、アスンシオン市議会も議員給与の20%削減を打ち出しており、政治家も一体となって未曽有の危機に立ち向かう姿勢を見せています。また、生活困窮世帯への食料品購買補助金として50万ガラニ(約8,800円)を支給することを決めました。しかし、この配分方法については不明な部分も多く、今後議論となりそうです。

日本でも補助金や商品券の発行が話題になっていますが、何故か政治家から前向きな経済回復策や給料の返上や定員の削減といったコスト削減案は出てこず、ひたすら借金で目先の人気をとって政治コストを増やし、ツケを後世に回そうとしている姿勢をみると、いち早く減棒を発表したアスンシオン市の方が先進的であるように感じられます。

コロナ患者が10名程度、死者1名と国際比較では少ないパラグアイですが、ここまで一気に防疫レベルが上がったのには、いくつかの理由があると思います。

先ず、パラグアイは150年前の三国戦争で成人男子の九割を失う大打撃をこうむった歴史があり、大勢の命をリスクに晒すパンデミックという言葉により敏感に反応する傾向があること。次に、主要産業の一つに畜産業があり、過去の口蹄疫の発生で輸出先が限定される苦労が今でも続く(現在は予防接種の実施で口蹄疫は防がれている状態)だけに、謎の病原体ともいわれる新型ウィルスを蔓延させてはならないという強い合意があるであろうこと。そして、700万人のパラグアイ人口の三割以上を占めるというイタリア系移民が、本国での原因不明且つ予想外の深刻化を目の当たりにして、この病気をパラグアイには絶対持ち込んではならないという固い決意があること、が挙げられます。

4月5日発

3月11日に外出禁止の隔離政策がとられて25日目を迎え、パラグアイにおける新型コロナの発症例は96件、死者は3名、回復者は12名という状況です。
https://www.abc.com.py/coronavirus/

パラグアイの人口700万人弱で発症が96人というのは730万人の埼玉県(160人)や620万人の千葉県(235人)と比べても少ないですが、これはこの25日間の徹底した衛生管理によって生じた差であろうと考えられます。

現在アスンシオン市内で営業を許されている店舗はスーパー・薬局・コンビニ・ガソリンスタンド等と極めて限定的ですが、近所のパン屋も開いていて、昨日出向いてみたら、ここでも入口に特設の水道が設置されていて、お店の人が手洗いを指導し、非接触型体温計で検温を行っていました。今や入店前の手洗いと体温チェックはパラグアイでは常識です。

自宅に籠ってネットで世界の事情をチェックしてみると、色々なところでトイレットペーパーや消毒用アルコールなどの欠品が発生しているようですが、パラグアイではマスクは店先から消えているものの、その他の衛生用品で欠品しているものは無く、食料品も生鮮品を含めて豊富に出回っています。

これについては今週の記事で、パラグアイが経済的に自立可能性が非常に高いので、経済封鎖が長引いても受けるダメージは比較的低いだろうと報じられました。
https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2020/03/30/paraguay-con-oportunidad-de-ser-economia-autosustentable/

食糧自給率340%で世界一、森林資源も豊富ではあるものの、輸入に頼らざるを得ない必須資源は燃料や塩など色々あって、特に燃料が来なくなると物流が止まってしまうので、本当に自立可能とは言い切れません。やはり、お互いに足りないモノを助け合って動かすことで世界の経済は回るのだということを改めて痛感する隔離期間です。