執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)
「この連載パナマ・レポートは、北海道大学法学研究科研究員のルベン・ロドリゲス・サムデイオ氏の特別の協力によって、中米のパナマの政治、経済、外交等についての最新情報を定期的に提供するものです。皆様方のコメント等をお待ちいたします。」
I.政治
A. Varela元大統領の捜査
Ulloa検事総長は5月21日の記者会見で、Varela元大統領の犯罪捜査が続いていることを明らかにした。Varela元大統領は権限乱用、資金洗浄、不正蓄財、汚職等15事件と関わったという疑いがもたれている。その中には、ブラジル大手企業であるOdebretchから賄賂を受け取った事件も含まれている。2019年11月に、Varela元大統領が紛失したスマートフォンから、個人メッセージがネットに流され、 Porcell前検事総長が守護神として働いていたことがわかった。その結果、Porcell前検事総長は2020年1月1日をもって辞任した。しかし、検察庁では、Porcell前検事総長に信頼されていた検察官がまだ残っているため、Varela元大統領の捜査が左右される恐れがあるという声もあった。その結果、コルティソ大統領に任命されたUlloa検事総長は5月26日に、何人もの検察官を異動させた。
B. PRD党Salazar議員の捜査
PRD(民主革命党)のSalazar議員は、ローン猶予法案に関する議会議論において、法律の批准に反対するPRD党の議員を批判し、4月22日に行われた党内会議では、López議員を殴打した上、Harding議員にペットボトルを投げたと言われている。Harding議員は同党のSalazar議員から暴行罪として最高裁判所に犯罪捜査を求めた。パナマ憲法によって、国会議員の捜査は最高裁判所に託され、9人の判事の一人は検察官として捜査を行うと規定されている。
Salazar議員は、2009年に政治活動を始め、2019年の総選挙で、Colon県の議員として当選した。そして、2019年11月と2020年3月の事件で警察を威嚇したため、既に最高裁判所による犯罪捜査対象となっている。Hardin議員事件の捜査が認められると、現役員を含め、PRD党会議に参加した者は証人として召喚された極めて異例の事件である。尚、場合によってはPRD党内捜査も受け、Salazar議員は除籍処分となる可能性もあり、辞任に至る可能性もある。
C. 賃貸契約内容の変更禁止政令
政府が5月1日の政令第145号により、緊急事態宣言の有効期限中およびその解除後の2か月間に、新型コロナウイルスによって影響を受けた者を対象とし、家賃支払いの猶予、および契約変更または解約を禁止とした。これに対して、パナマ不動産業界は経済的な余裕がある者が政令第145号を悪用する恐れがあるために、今後の賃貸契約の締結に、「前家主の推薦状」を要件とすることを求めている。また、違法として政令第145号を批判する専門家もいる。
D. 教育再開
パナマ教育省は小中高校の授業を段階的に再開する計画を発表した。第一段階は4月から、インターネット、ラジオ、テレビ等を利用する通信教育システムとして実施されている。第二段階は、7月から始まる遠隔教育とし、第三段階は新型コロナ・ウイルスの終息後から行われる予定である。また、5月29日から、委員会では、第二段階と第三段階の具体的な実施方法を検討する。他方、国立のパナマ大学は2020年度の授業は全て遠隔教育とすることを決定した。パナマ教育省は4月からオンライン授業システムを実施し、5月上旬からテレビで授業を放送することにした。そして、エルサルバドル政府がパナマ政府の協力を求め、遠隔教育として、エルサルバドルでも放送されることになった。
Ⅱ.政治
A. 緊急事態宣言解除
産業 | 解除日付 | |
1 | 漁業、ネット販売、自動車修理等 | 5月13日 |
2 | 工業、鉱業、宗教的イベント | 6月1日 |
3 | 卸売、小売、サービス業 | 未定 |
4 | ホテル、レストラン、航空会社 | 未定 |
5 | 学校、居酒屋、スポーツイベント | 未定 |
6 | コンサート、祭り等 | ワクチンの発売次第 |
3月下旬に発令された緊急事態宣言による外出禁止命令と休業命令は、5月13日から段階的に解除されている。解除は次の通りに実施される予定である。
政府は各段階の開始を決めるには感染率に着目しつつ、ソーシャル・ディスタンシング、マスク着用、人数制限等のような「新常態」(Nueva Normalidad、New Normal)という対策を取っている。また、外出禁止命令が改正され、6月1日から、性別、個人番号による外出可能時間を廃止し、19時から翌5時までが外出禁止となった。
しかし、第一段階の開始から,感染者が増加しているため、医療専門家は解除に反対している。5月13日時点で確認された感染者は8,783人であったが、5月31日までのわずか18日間で1万3000人を超える感染者が出た。
B. 銀行ローン等返済猶予協定
コルティソ大統領は、4月7日に議会で採用されたローン猶予法を拒否し、5月4日に、銀行業界とローン等返済猶予協定を結んだ。ローン等返済猶予協定は個人ローン、住宅ローン、商業融資、自動車ローン、農業金融、クレジットカードの返済を2020年12月31日まで猶予し、遅延利息を禁止している。しかし、通常の利息は影響を受けていない。5月20日時点では、約90万人が協定を利用している。
C. 不動産と新車販売の減少
新型コロナ・ウイルス拡大による不動産業界と新車販売への影響が続いている。新車販売は前年比200,000,000ドル減少し、約4千人が解雇された。他方、新築マンションの販売や賃貸は、約90%に急速に収縮した。また、パナマ大手航空会社であるコパ航空は、5月上旬に約3億5,000万ドルの社債を発行し、6月1日から国際線の再開を決定した。
D. 国民年金制度崩壊の危機
新型コロナ・ウイルスによって、社会保険庁の主な収入源である社会保険料が減少する一方である。社会保険料は、国民健康のみならず、国民年金制度の柱でもある。政府は、約28万人の年金を年末まで給付できること及び資金を得るために様々な対策を検討していると発表した。
Ⅲ.外交
A. 移民の保護問題
米州人権裁判所は5月11日にパナマ政府に対して、ダリエン県にいる移民キャラバンの健康状態についての報告を求めていた。パナマ政府は、ダリエン県のLa Peñitaに約1,700人、同県のLaja Blancaに約160人の移民がいること、そして、La Peñitaにいる移民の中には新型コロナ・ウイルスの感染者が約60人いると返答した。5月27日に米州人権裁判所は、改めてパナマ政府が移民の健康を保護するように求めた。
B. 運送トラック入国禁止問題
コスタリカ政府は、新型コロナ・ウイルス拡大防疫対策として、5月17日に、国際運送トラックの入国を禁止とした。パナマの外務大臣をヘッドに、両国の交渉が行われ、5月20日に、二国間協定が結ばれた。協定によると、パナマ人の運転手はコスタリカに入国できるが、72時間以内に出国すること、更に、貨物の陸揚等はコスタリカ政府の定めた場所で行わなければならないことが合意された。しかし、パナマに入国するコスタリカの運送トラックには同じ制限がないため、パナマの運送会社の不利となり、同じような制限条件を設ける必要があるという声が上がっている。
C. EUはパナマを租税回避地のブラック・リストに追加
EUはパナマを租税回避地(Tax Heaven)のブラックリストに追加したことを明らかにした。2月上旬には、ブラックリストの検討を発表し、5月上旬に決定した。これに対して、パナマ政府が、「ブラックリストへの追加は、2017年のGAFI(金融活動作業部会)調査を基準とし、近年の法律改正や政策を配慮していない上、EUはパナマに対する通知または返答する機会を与えていない」と反論している。また、EUが2019年2月に、パナマをブラックリストに追加した際、アメリカ、EU加盟国から批判を受け、基準を見直したが、今回の追加も対象国との連絡を必要としない全基準で決定された。
以 上