連載パナマ・レポート2:2020年6月 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート2:2020年6月


連載パナマ・レポート①
(2020年6月)

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)

Ⅰ.新型コロナウイルスの第二波

A.感染者数

政府は5月13日に、外出禁止命令の改正によって段階的な解除を決定した。5月13日時点で、一日の新たな感染者数は167人であったが、二週間後の6月1日に634人、6月6日に541人、6月20日には948人が確認された。6月25日時点で、感染者数は28,030人、死亡者は547人まで増加した。一方、回復者は14,794人、死亡率は1.9%であり、チリに次ぎラテンアメリカで最も低い。また、Veraguas県の刑務所では、囚人の68%に陽性反応が出たことが明らかになり、政府が他の刑務所で、医療や検査を行っている。現在パナマ全国には約1万人の囚人がいる。

B.外出禁止命令の解除

保健省は、6月4日にパナマ県と西パナマ県で午後5時から午前5時、他の県では午後7時から午前5時までを外出禁止とした。しかし、感染者拡大が収まらず、外出禁止命令が改めて発令され、6月8日からパナマ県と西パナマ県において個人番号、曜日、および性別によって外出時間が決められる制度に戻った。以上の措置をもって、政府が5月末時点で、再開未定の産業について、新型コロナウィスルの感染力、国民の防疫への協力、そして医療システムを配慮して、地域によって段階的な解除を検討している。

C.新型コロナウィスルの異変

6月15日に、ゴルガス記念研究所のフアン・パスカレ研究長は、パナマで新型コロナウィスルの異変が発見されたと明らかにした。新たな異変は、A2 PANと呼称され、アメリカの3型、ヨーロッパの4型、アジアの1型から生じた。また、6月17日に発表された検査の結果によると、A2 PANは他の型より感染力が強いが、症状が悪化するとは考えられていない。

Ⅱ.政治

A.パナマ連帯病院 (Hospital Panamá Solidario)についての疑惑

トルコ法人のTurmaskはパナマ連帯病院の建設に関わっていないことを明らかにした。代表取締役社長のAlí Kemalogluは、Tursmaskの名前は、パナマ連帯病院の入札で利用されたことをインターネットで知り、自らパナマのラジオ局と連絡を取り、「コロンビアで病院を建設するための計画や見積もりを用意したが、パナマ政府の入札募集に参加していない」と説明した。また、Kemaloglu社長はパナマ連帯病院を建設したSmartBrixの代表取締役とコロンビアで病院を建設するための交渉を行い、見積もりを送った。コロンビア病院の計画等は、そのままパナマ政府の入札募集で利用されたが、値段が約三倍の160万ドルであったと発表した。パナマ連帯病院は、ソーラーパネルを利用し、検査や診断に100 病床が用意されている病院であり、6月11日から患者の医療を開始した。

更に、6月10日に政府契約の履行を管理するパナマの会計検査院(Contraloría General de la República)は、パナマ連帯病院の弁済を許可せず、公共事業省(Ministerio de Obras Públicas)にコメント付きの書類を返却した。加えて、検察庁は、病院の入札募集過程につき捜査を行っている。

B. 銀行ローン猶予法案の再採用

6月18日に、銀行ローン法案は再び採用された。コルティソ大統領は、5月中旬に法案を拒否し、銀行業界とローン等返済猶予協定を結んだ。しかし、協定は拘束力がないため、パナマ国会がコルティソ大統領の批判を踏まえ、法案を改めて議論した。更に、採用された法案には経済的な支援である連帯ボーナス(Bono Solidario)についても規定している。

C.PRD党(民主革命党)の党内会議

6月18日に、銀行ローン猶予法案が採用された直後、PRD党の議員は、パナマ市内のレストランで党内会議を開催した。しかし、外出禁止命令によってレストランは店内でサービスできないと制限されている。ネット上では、PRD党の議員に対する批判が炎上し、独裁政権への批判方法であったPailazo (フライパンをたたいて鳴らす)でレストラン前にデモが行われた。6月19日にパナマ保健省は、PRD党およびレストランに対して各5万ドルの罰金を科したが、ターナー前保険相は、PRD党の党役員としても務め、レストランでの党内会議を許可したため、党員から批判を受けた。また、PRD党は、デモに参加した市民にも罰金が科されることを求めている。

D.外出禁制命令の違憲審査と裁判の再開

パナマの最高裁判所は、6月18日に新型コロナ・ウィルスの政府対策に対する違憲確認を求める二つの提訴を認めた。6月下旬時点では、最高裁判所がまだ認めていない政府対策の違憲確認を求める6つの提訴がある。コルティソ政権は憲法第55 条が定める「緊急事態宣言」ではなく公共工事入札契約適正化法 (Ley de Contrataciones Públicas)を根拠とし、「緊急宣言」とともに「外出禁止命令」を発令したため、後者の合憲性は疑われている。

更に、最高裁判所は3月15日から停止されている裁判およびその他の司法手続きは、6月8日から感染者が多いパナマ県と西パナマ県を除き、全国での裁判の再開を決定した。そして、パナマ県と西パナマ県では6月22日から再開することを決定した。 裁判再開によってバレーラ前大統領への裁判準備が開始する。

E.内閣改造

コルティソ大統領は、6月24日に内閣改造を行った。前保健省副大臣のルイス・フランシスコ・スクレ(Luis Francisco Sucre)が、保健省大臣、前住宅土地計画省(Ministerio de Vivienda y Ordenamiento Territorial)副大臣 のロヘリオ・パレデス (Rogelio Paredes)が、同省の大臣に昇格した。さらにマリア・イネス・カスティヨ (María Inés Castillo)が、社会開発省大臣として任命された。

Ⅲ. 経済

A.景気回復

政府は、2020年1月-3月の間、経済は1.9%成長したが、前年同期比の経済成長は、3.4%であり、6月までに1.4%に減少した。経済大臣は、3月から5月下旬時点で政府の歳入が約8億8千万程度減少し、この傾向は12月まで続くと説明した。コルティソ大統領は、財政出動によって、2021年後半にパナマ経済の復帰を期待して、具体的な政策は7月1日に公表すると述べた。更に、6月18日に、米州開発銀行(IDB)から、零細中小企業の支援のための3億ドルのローンの供与が発表された。更に、政府は2020年―2024年の期間、開発事業に約4億ドルを充当する計画を公開した。

パナマ輸出業者協会 (Asociación Panameña de Exportadores)は、パナマの輸出者は、すべての地域への輸出を検討しているが、アジアの国に対する特別な関心を持っていると述べた。現在、パナマの主な貿易相手国はアメリカ、ヨーロッパおよび他のラテンアメリカの国であるが、カナダ、フランス、イスラエル、中国へ輸出するための準備も進んでいる。更に、韓国とは自由貿易協定を交渉中である。

2020年1月-3月の輸出量は前年同期比、11%増加した。内訳は次の通り。

品 目 輸出額 増加率
バナナ 3,000万ドル 2.1%
木材 2,900万ドル 3.7%
金属廃棄物 1,400万ドル 12.5%
小麦粉・魚油 1,330万ドル 200%
エビ 440万ドル 45%
牛肉 1,360万ドル 162%

しかし、民間部門の調査によると、企業が7月から9月までに7万9千人を解雇する予定とされている。また、中小企業連合会 (Unión Nacional de Pequeñas y Medianas Empresas)経済状況の悪化によって約4万社が倒産の危機に直面していると明らかにした。

B.物流業界

他の業界と比較し、物流業界は、政府と組んで、サプライチェーンの維持に留意したため、新型コロナ/ウィルスによってパナマの物流業界への悪影響は少ないと予想されている。パナマ海運庁 (Autoridad Maritima de Panama)は、2020年1月から5月まで、コンテナ平均積載量は前年同期比の12%増加したと発表した。また、伝染病拡大防疫の対策として、物流業界の様々な行政手続きのデジタル化が加速された。

パナマ運河庁は、2020年4月の時点で、パナマ運河を通過した船が、前年同期比、約3%減の4,742 船となったことを発表した。通航する船の減少にも関わらず、パナマ運河の総収入が約5.6%増加し、891,000ドルを超えた。しかし、パナマ運河庁は、現時点の総収入が予測を上回ったとしても、今年度の後半には収入の減少を想定している。また、パナマ運河庁は4月と5月に260隻がパナマ運河の通航をキャンセルしたと公表した。

Ⅳ. 外交

A.イスラエルへの人道支援航空

新型コロナ・ウィルスの拡大によって、パナマ、コスタリカ、コロンビアに足止めされた176人のイスラエル人は、6月18日に、パナマのトクメン空港発イスラエル行の人道支援航空で帰国した。

以   上