『移民と徳 -日系ブラジル知識人の歴史民族誌』 佐々木 剛二 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『移民と徳 -日系ブラジル知識人の歴史民族誌』  佐々木 剛二 


 サンパウロの「ブラジル日本移民史料館」に収蔵されている数万件の資料が伝える日本人移民の記憶の中から、日本移民の知識人たちが展開してきた多様な実践を1908年から21世紀初めに至る間の移民という状況の中で形成された知識、道徳のあり方に目を向けることで、これまでのアイデンティティやエスニシティに留まらない移民の人々の行為主体性を理解しようと、サンパウロにおけるフィールドワーク、歴史的民族誌調査を通じて試みた研究書である。
 日本帝国主義時代に故郷から押し出されて移住した日本移民の1920年代から40年代の知識人形成期、移民的徳が誕生した第二次大戦の戦前・戦中と戦後の勝ち組負け組闘争、戦後いち早く再開した日本の移住政策、移民社会の混乱期から安定期への移行、70年代後半に至る間の移民知識人グループの雑誌発行や研究会結成などの活動、80年代から本格的になったデカセギ移住とサンパウロにおける日系旅行社、邦字新聞社が大きな役割を務めた社会的プロジェクト活動、これらを考察することにより分かる日系移民社会に生じている形態学的変化、巨大な政治的祭典となった2008年のブラジル日本移民百年祭において移民が固有の徳の体現者として構築したことを詳細に記述し、終章ではそれらを振り返りながら移民をめぐる政治・知識・徳というテーマに理論的検討を行っている。著者は日系移民史、日系文化の研究者で、現在慶應義塾大学SFC研究所上席研究員。

〔桜井 敏浩〕

(名古屋大学出版会 2020年2月 390頁 6,300円+税 ISBN978-4-8158-0978-2 )  〔『ラテンアメリカ時報』 2020年夏号(No.1431)より〕