『世界からコーヒーがなくなる前に』 ペトリ・レッパマン、ラリ・サロマー - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『世界からコーヒーがなくなる前に』  ペトリ・レッパマン、ラリ・サロマー 


 ブラジルのサンパウロ州にあるファゼンダ・アンビエンタル・フォルタレザ(FAF、フォルタレザ環境農場)では、シウヴィア・バヘッドとマルコス・クロシュの一家が米国での生活からブラジルに戻り、21世紀初頭頃からサステナビリティなオーガニック・コーヒー栽培を始めた。息子のフェリペも加わり2010年からスペシャリティコーヒーを目指し、無農薬の有機農法、アグロフォレストリー(混農林業)栽培法、手摘みの収穫とコーヒーチェリーの精製、乾燥、保管などに工夫と細心の注意と手間をかけることで、これまでの質より量を目指していたブラジルコーヒーの概念を覆す良質のコーヒーを産出するようになった。 
 アラビカ種とロブスター種の特質、コーヒー農家の取り引き、誤解の多いオーガニックと品質、そしてサステナビリティの間の差異、単作で土壌を枯渇させるモデルから混作でコーヒーに加えて果実、野菜、シェードツリーの木材としての出荷による経済性の並立、市況で動く価格の中で如何にスペシャリティコーヒーとしての価格を維持するか等々、今やコーヒー栽培から消費までのすべてに関わるようになったクロシュの一家へのインタビューによって、気候変動と大量生産に依る使い捨て文化に対峙するコーヒー革命の挑戦が描かれている。
 著者の二人は、個人当たりのコーヒー消費量が世界一多いフィンランドのノンフィクション・ライターとコーヒー・コンサルタント、訳者もフィンランド在住の通訳、コーディネーターで、彼らのコーヒーへの思いが強く感じられるノンフィクション。

〔桜井 敏浩〕

(セルボ貴子訳 青土社 2019年12月 225頁 1,800円+税 ISBN978-4-7917-7224-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年夏号(No.1431)より〕