執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科研究員)
8月27日時点で、パナマにおける新型コロナウィスルの感染者は89,982人、死亡者は1,948人、回復者は63,996人と確認された。パナマ政府は、新型コロナウイルスのドイツ製ワクチンを実験するため、250人のボランティアの募集を行い、4,000人が申請した。更に、ゴルガス記念研究所は、唾液によるPCR検査を導入することを明らかにした。
8月上旬に、パナマ人の医者が不足しているため、外国人医師を雇うことを検討していると政府が発表した。しかし、医師会を始め、批判の声が上がり、政府は8月17日に外国人医師の雇用を見送った。また、医療従事者は、医療用品不足、および約二か月分の給与が支払われていないため、8月30日にストライキを行うことを発表した。8月26日時点では、約400人の看護師が感染し、4人が死亡した。
これに対して、パナマ議会は、8月24日に医療従事者の給与と医療用品の購入に必要な資金を充当した。
A.2021年度国家予算
パナマ議会は、2021年度国家予算の法案についての議論を行っている。政府は、新型コロナウイルスによって、2020年度の失業率は20%までの増加、GPDは8%減少すると予測している。法案では、2021年にGDPが4%増を前提とし、2021年度国家予算として240億ドルと、2020年度予算の3%増を求めている。その中で、経費予算は160億ドル、投資予算は70億とされている。更に、パナマ運河の予算は、33億800万ドルとされた。
野党は、経済が悪化しているにもかかわらず、議員、大臣、大使等の様々な手当が2020年度予算と同額とされていることを批判し、政府からの説明を求めたが、予算作成担当のカルロス・ゴンザレス局長は、根拠を明らかにしなかった。
また、7月16日に政府の提出した大統領、大臣、管理庁の職員の給与減額に関する法案について与党である民主革命党(PRD)内で意見が分かれている。一方、リカルド・トレス議員(PRD党)とコリナ・カノ議員(モリレナ党)は、職員の給与減額は違憲であると述べている。他方、レアンドロ・アビラ議員(PRD党)とラウル・ピネダ議員(PRD党)は、議員も自ら給与を減少すべきと主張している。政府の法案について、法案の適法性を予め判断する行政検査局(Procuraduría de la Administración)のリゴベルト・ゴンザレス長官は、公務員の給与減額は法律によって規定できると述べている。エンダラ政権(1989年-1994年)に、アメリカ侵攻によってパナマ経済が悪化し、大統領、大臣の給与が減額された前例がある。
B.アメリカの新代理大使
Stewart Tuttleは、在パナマ代理大使に任命された。アメリカは、新型コロナウイルス防疫支援としてパナマに400万ドルを寄贈している。その中で、Tuttle代理大使は、8月24日に、西パナマ県のニコラス・ソラノ病院に1,600の検査キットを届けた。更に、アメリカとパナマは、パナマで資金洗浄と汚職事件を担当する連邦捜査局(FBI)の特別タスクフォースを設立するための覚書(MOU)を締結した。
A.経済再開
パナマ政府は、8月24日から、非政府組織、建設業一部の活動再開を決定した。また、ショッピングモールは、ネット販売の商品を引き渡すためのみの再開が許可されている。再開によって5万人の労働者が職場に復帰することが予測されている。更に、労働局は、パナマ在留外国人の労働許可証の有効期限の延長を決定した。
更に、9月7日にスポーツイベント(観客なし)、9月14日に建設業、引越し業者、コロン県のフリーゾーン地、9月28日に小売店、レストラン、その他のサービス業、航空、そして、10月12日に、夜間外出禁止令の解除、ホテル、観光業、図書館、プールの再開を決定した。これに対して、全国民間企業協会(Consejo Nacional de la Empresa Privada)は、失業者は40万人を超える恐れがあるため、9月からの段階的な再開を反対し、9月1日からの完全な再開と外出禁止命令の解除を求めている。
また、パナマ銀行管理庁は、2020年の前半において銀行預金は、月1.5%増加したと発表した。パナマ銀行における預金は、73%が国内、残り27%が海外からの預金である。
B.零細中小企業への支援
パナマ議会は、8月上旬に「有限起業法」(Ley de Sociedades de Emprendimiento de Responsabilidad Limitada)を承認した。有限起業会社は、弁護士による申請を要件とせず、ネットのみで設立できる。個人は有限起業会社を一社しか申請できず、証券取引所での取引は禁止され、設立日から二年間に所得税、および、個人寄付は、1万ドルまで免税とされている。更に、法案では、政府が有限起業会社の関税50%の免税を決定できるとされている。
8月1日に、政府が、コクレ県の工業、農業の零細企業へ300ドルから1,000ドルまでの支援金を配布した。更に、8月21日に商工省は、民間部門、国際機関と協力し、産業の促進措置として、農業零細中小企業の100社に技術支援を提供すると明らかにした。
第一段階では、イノベーション、テクノロジー、市場アクセス、資金調達手段についての支援が行われる。商工会議所は、経済再開に備えて中小企業向けのゼミを行った。
C.航空旅行
政府は、8月21日に、人道的配慮、医療用品の運送を除き、国際線の停止を9月21日まで延期すると発表した。新型コロナウイルスによって国際および国内船は3月22日から停止されている。
パナマ大手航空会社のコパは、政令に従い、8月、9月の乗り継ぎ便のみを行うと明らかにした。現在、コパは、米国、コスタリカ、メキシコ、ドミニカ共和国、エクアドル、チリ、およびブラジルへの便を運航している。新型コロナウイルスによってコパの収入は、98%減少し、5月に3億5千万ドルの社債を発行した。
A.パナマ・コスタリカ商事紛争
パナマとコスタリカの商事紛争が続いている。コスタリカ政府は、5月17日に新型コロナウイルス拡大防疫対策として、一時的にパナマ発の国際運送トラックの入国を禁止し、貿易関係は更に悪化し、コスタリカ政府は改めて国際トラックの入国を禁止した。
これに対してパナマ政府は報復措置として、コスタリカ発のトラックの入国を拒否している。更に、パナマ政府は、6月20日に、必要な書類が期間内に提出されなかったため、コスタリカの乳製品大手企業であるドス・ピノスを含め、乳製品および食肉処理場の25工場の衛生許可を更新しないことを発表した。パナマで発売される 乳製品の40%は、コスタリカ産である。以前、輸入された肉製品の一部には、家畜伝染病があったため、パナマの牧畜業者は、現在も継続している損害を被った。当該家畜伝染病の株は、コスタリカで発生したものと疑われている。
パナマ食事衛生局(AUPSA)のラウル・サルセド局長は、2014年以降、衛生許可に必要な設備の検査は行われていないと明らかにした。これに対してコスタリカ政府は、パナマ政府の衛生許可更新拒否が貿易障害に該当するとして、世界貿易機関(WTO)に通知した。更に、7月にパナマ大学が行った検査では、コスタリカ発の魚餌に害虫が発見されたが、AUPSAが、検査の結果を否定している。