『暴力の政治民族誌 -現代マヤ先住民の経験と記憶』 池田 光穂 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『暴力の政治民族誌 -現代マヤ先住民の経験と記憶』 池田 光穂


 グアテマラでは1960年から36年間にわたって内戦が続いたが、その中で高地のマヤ系先住民は軍とゲリラの武力衝突の狭間にあって凄まじい政治暴力の応酬に巻き込まれて殺害され、先祖伝来の住み慣れた土地を追い出された。1996年に政府とゲリラ組織の包括和平協定が成立したが、2010年代前半までマヤ系先住民への政治的暴力が続いた。本書は文化人類学、中米民族誌学を専門とする著者が収集したエスノグラフィー(民族誌)調査により、マヤ系先住民のうちグアテマラ西部高地の主にキチェとマムの人たちが経験した政治的暴力と政治経済意識の変化に関する研究の成果である。
 著者は、先住民社会の多くの人々との対話を通じて、伝統祭祀と社会、先住民共同体と経済、暴力の歴史と政治的暴力の諸相、マヤ言語などの先住民表象と国家の関係、暴力を逃れる難民と北米への移民、北米からの資金流入による経済開発の目論見、先住民と地方分権、地方政治との関わりを彼らの語りで再現している。「政治民族誌」という政治暴力の研究手法の道を拓いた意欲的な研究書。

〔桜井 敏浩〕

                           
 (大阪大学出版会 2020年8月 357頁 5,900円+税 ISBN978-4-87259-697-7 )
 〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕