『コロンブスの図書館』エドワード・ウィルソン=リー - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『コロンブスの図書館』エドワード・ウィルソン=リー


13歳の時にコロンブスの第四回航海に同行し航海術を身につけ、後にスペイン王カルロス一世(神聖ローマ皇帝カール五世)にブレーンとして仕えたコロンブスの婚外子の次男エルナンド・コロンの人生を、膨大な史料から再構築したノンフィクション。

エルナンドが書いた伝記『コロンブス提督伝』の原稿は、孫のエルナンドの相続人である第三代提督ルイス・コロンからスペインの人文学者に渡りイタリア語に訳され、1571年に最初にベネチアで出版された。その文章は、手稿のままだったラス・カサスの『インディアス史』が1875年に出版されると、二つの書物の類似点、後者が前者の一部を引用していることが明らかになったほどだが、エルナンドはコロンブスの米大陸“発見”の歴史を詳細に記録したばかりではなく、膨大な本を買い集め、それらや財産などの目録を遺しており、それらの一部はスペインのセビーリャの「コロンビーナ図書館」に現存する。

本書は、スペイン宮廷での1942年のコロンブスの最初の航海の実現とそれ以降の評価を掘り起こし、1506年に失意のコロンブスが没した後、嫡子ディエゴとともにカルロス一世の宮廷に仕えたエルナンドが遺した多くの本を買い漁った時の通貨の交換レートまで記した購入の記録、日記、目録などとともに、父親から譲り受けた手紙、勅許状、航海日誌など膨大な資料を整理し、伝記風に纏めたものである。

著者は英国ケンブリッジ大学で中世・ルネサンス文学を講じるケニア生まれの学者。これら資料を駆使し、当時のスペインと欧州・イベリアの外交に立ち会い各国の文化に接していたが、自らについては語ろうとせず裏方に徹したエルナンドの人生を蘇らせている。

〔桜井 敏浩〕

(柏書房 2020年5月 416頁 2,700円+税 ISBN978-4-7601-5090-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕