1997年に20歳の保育士がサンパウロのファベーラの一つにある保育園で3週間の実習を経験した。2年後日本の保育園で経験を積み、ポルトガル語を勉強してサンパウロに戻ったが、もっとあなたを必要とするところで取り組めと薦められ北東部セアラ州の州都フォルタレーザから170km南東の観光地カノアに隣接する漁村エステーヴァン村に赴く。仕事に追われる村の母親たちの要望で、保育園を開くことを決意し、行政との折衝や家庭訪問を行い、現金経済化や観光開発が進展する中で、躾、生活習慣の改善などに尽力する。村人たちとの交流が広がり深まるにつれて、望まれて生まれてきた子どもたちがほとんどいない、小学校に就学出来ない、続けられない子どもが多数いるという事実に直面する。さらに支援団体からの援助が打ち切られたのを契機に、2005年に「光の子どもたち協会」を立ち上げ、村人やスタッフの力も得てカノア保育園を続けている。また、2003年には村の青年と結婚し2児に恵まれた。
単に若い日本女性が夢を追ってブラジルに入り保育活動に打ち込んだという自伝に終わらず、村の人々の生活の背景にあるもの、子育てを通じての交流、バイリンガルに育った娘や家族とのことなど、全ページを子どもたちの愛らしい表情や美しい海浜の村のカラー写真とともに豊富な話題を楽しく読ませる。
〔桜井 敏浩〕
(サンパティック・カフェ発行・星雲社発売 2020年8月 160頁 1,700円+税 ISBN978-4-434-27913-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年秋号(No.1432)より〕