2020-11-11 11:53:07
10月27日講演会報告
【演題】ポスト・コロナのラテンアメリカ・カリブ地域を考える:IDBと日本の果たす役割
【日時】2020年10月27日 15:00~16:40
【場所】オンライン
【講師】保井俊之 前米州開発銀行(IDB)理事(クロアチア、韓国、スロベニア、日本、ポルトガル並びに英国代表)、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授
【参加者】73名
保井氏の講演は、IDBの紹介、ご自身のIDB理事としての活動、IDBにおける日本の位置づけ・活動、LACの現状、LACにおけるCOVID-19の状況、イノベーションの動き、と幅広い内容に及び、講演後には活発な質疑応答が行われた。
1. IDBの概要
- 設立は1959年でADBより1年早い。建物は元マリオット・ホテル。
- 職員2160人中、日本人は22人。
- 9月の総裁選挙で初めて米国人(キューバ系アメリカ人)が選出される。
- 多くのLAC諸国が中所得国であり、その開発課題へのソリューションバンク、イノベーションバンクとして機能する。
- LAC地域最大の公的貸し手
2. 理事として心がけたこと
- フラットなチームを作ること、フィールドに行き「ありのまま」を共有すること、対話力(*)、傾聴力、表現力。
(*) スペイン語とポルトガル語は着任してゼロからのスタート。理事会での発言について、スペイン語圏国向けはスペイン語、ブラジル案件はポルトガル語、ハイチ案件はフランス語で行った。
3. 日本とIDB
- 日本は域外国最大の株主(授権資本1,768 億ドル/払込資本119億ドルの5%)。
- IIC(米州投資公社)二次増資(17億ドル:2015年)では中韓が日本を追い越した。
- MIF(多数国間投資基金)第三次増資(3億ドル強:2017年)ではトップドナーに
- 質の高いインフラ整備、IDB Lab(MIF)を通してイノベーションを主導
- 総裁は毎年訪日している
- 深化・拡大するパートナーシップ
- 日本企業とのイノベーティブな関係構築(ソフトバンク、NTTデータ、PSソリューションズ)
- IDB日本特別基金(コロンビア貧困地区でのスポーツ振興、パラスポーツ、保健栄養プロジェクトなど)
4. LACの現状
- 2010年代後半から成長が停滞。ただし、ペルー、チリ、コロンビアは経済成長「優等生」
- 成長にもかかわらず「格差」は改善せず;ピケティによればジニ係数が5~0.6で暴動が起こる;実際、チリで地下鉄運賃値上げを機に抗議活動が活発化し非常事態宣言を招いた。→IDBグループはタウンホール会合を開催(社会包摂と格差縮小に資するプロジェクトの推進を提案)
- 喫緊の課題である移民問題:2019年に500万人を超えた→2019年5月にMigration Initiative基金を創設(10憶ドル);日本はコロンビアのベネズエラ難民を支援
5. COVID-19
- LAC経済に大きなダメージを与える;IMFは2020年の経済成長率マイナス1%を予測
- 移民送金の縮小、観光産業への打撃、原油・資源価格への影響
- IDBの支援:財政支援、貿易金融、企業支援など
- 直面する課題:産業構造の転換、「格差」の問題が招く国家安全保障の問題
- ダブル危機(コロナ+α(災害、政治リスクなど)に対するレジリエンスの確保
- 内発的イノベーションの育成;新たな動きにLaboratori<a>がある
- イノベーション能力向上に日本が出来ること:質の高い社会インフラ整備、自由と自己実現、人造り
6. まとめ(IDBと日本の役割)
- COVID-19以前から顕在化していた課題にソリューションの提案を先導する
- 質の高いインフラ整備
- 社会インフラ事業(保健、教育、エンパワメントなど)
- 「自由で開かれた」社会の実現推進
- 民間セクターおよびイノベーション分野での協力