連載エッセイ88:硯田一弘 「南米現地レポート」その17 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ88:硯田一弘 「南米現地レポート」その17


連載エッセイ85

南米現地レポート その17

執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役)

「1月4日発」

2021年、新年明けましておめでとうございます。

新型コロナで明け暮れた一年が終わり、新しい年の始まりとなった訳ですが、パラグアイは元旦を含め、蒸し暑過ぎない心地よい三が日となりました。(厳密には元旦だけが祝日なのですが、今年は2日、3日が土日になったので、まるで日本の様な三日間となった訳です。

1日は流石に市内のどこのお店も休んでいて、開いているのはガソリンスタンドと併設店舗、薬局にコンビニだけで、本当に静かだったのですが、3月のCuarentena隔離期間が始まってから相当長い期間、こうした光景に見慣れていたので、妙な既視感に襲われたような元旦風景であったともいえます。新聞は元旦はお休み、2日は普通の紙面で、また日常が再開したことを感じさせたのですが、今日の紙面をみて少々ビックリ。2020年が忘れられない年になったという重大ニュース特集を一面で紹介していました。

日本の新聞だと、元旦に分厚く重い新春特集版が配られて、二日は休み、三日から通常に戻るイメージですが、丁度日曜版が三日になったということもあってこの特集になったようです。

忘れられない昨年のニュースの一番がブラジルサッカーのスターRonaldinho選手の違法入国事件、二番目が新型コロナ、三番目が旱魃による野火の煙による大気汚染、以下コロナ関連の汚職、病院関係者の貢献、学校閉鎖による遠隔授業、過激派ゲリラによる元副大統領誘拐、謎の幼児誘拐事件となっていて、確かに全部重大ニュースですが、他にあったようにも感じる扱いでした。しかも、この特集、68ページにオマケの4ページが加わった72ページ中32ページ目から僅か4ページという扱い、年末に色々な媒体で一年を振り返る日本とは文化の違いを感じさせるものでした。

因みに、毎年恒例の12月8日の巡礼が禁止になったことは、28ページで別の特集が組まれていましたが、これは日本で言えば初詣を禁止するようなもので、間違いなく昨年の重大事件の一つなのですが、自粛を求められながらも多くの人達が参拝に出向いた日本と違って、本当に人気の無い(禁止なので当たり前ですが)大聖堂の姿に驚かされます。

実はクリスマスの翌日、12月26日に訪問禁止が解除されたCaacupe大聖堂に出向いてみたのですが、本当に人出は少なく、閑散とした内部は普段では考えられないほどのゆったり感で礼拝することができました。

クリスマスイブの花火による失火で焼失した地域の写真が掲載されています。左上の大きな建物は旧国会議事堂で、現在は国家文化センターになっていて、貴重な歴史的資料が収められている建物ですが、一部、音楽堂として使われている部分も類焼し、被害を受けました。

新しい年をより良いものにしたいと願いますが、過ぎた年の過ちを繰り返すことのないように、忘れないよう記憶にとどめることも大切と感じる正月です。

「1月11日発」

日本では東京周辺の一都三県で二度目の緊急事態宣言が出され、再び行動が制限を受けることになりました。そのような厳しい環境の中、かつての職場の上司の御紹介で、神田外語大学の特別授業で中南米における日本のプレゼンスについてリモート講義をさせて頂き、百名以上の学生の皆さんとリモートで接する機会を頂きました。

聴講生の殆どが1年生ということで、今年度は学校でのナマ授業を満足に受けられていない皆さんに、少しでも中南米の空気感を伝えようとしましたが、初回は僅か15分の紹介版でしたのでほんのサワリのイメージだけでした。今後重ねて機会を頂ければ、より多くの魅力を学生諸君にお伝えしたいと思います。この講義で、リモートの向こう側の学生諸君に「コロナが明けたら世界に飛び出して自分の目で世界を感じよう」と呼び掛けたのですが、偶然にも8日のNew York Yimes紙が「2021年に訪れたい52の行き先」の一つにパラグアイの首都アスンシオンを選んだ記事が掲載されました。
https://www.lanacion.com.py/negocios/2021/01/08/asuncion-situada-por-new-york-times-como-uno-de-los-52-destinos-para-visitar-en-2021/

実はNYタイムズ紙はこれまでに何度かパラグアイを魅力の旅行先として取り上げてきていますが、今回はアスンシオンで二年暮らした経験を持つイギリス人の英語教師が「人情味が魅力のパラグアイ」として紹介しています。
https://www.nytimes.com/interactive/2021/travel/places-to-visit-vacation.html

この記事に触発された訳では勿論ありませんが、今週木曜日に日本の茂木外務大臣が新年の中南米・アフリカ諸国歴訪の一環としてパラグアイにもお運びくださいました。
https://www.ultimahora.com/presentan-satelite-paraguayo-visita-ministro-nipon-n2921946.html   https://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/py/page3_002986.html
超多忙な外務大臣が世界的に厳しい移動制限の中で、敢えてパラグアイを目的地の一つに加えて下さったことは大変光栄であり、大きな期待に応えるべく、パラグアイの存在感をより多くの皆さんに伝えるべきと感じた次第です。

「1月18日発」

新型コロナで学校が閉鎖されていた期間、日本の牛乳消費が大幅に低下したというニュースを昨年の半ば以降何度も目にしました。一方、今日のLa Nacion紙によりますと、2020年のパラグアイにおける牛乳の消費は増加傾向にあったとのこと。
https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2021/01/17/afirman-que-la-industria-lactea-cerro-un-buen-2020-pese-a-la-pandemia/

3月に外出規制が敷かれた当初は、日本と同様に消費の落ち込みがあったものの、その後は家庭用の消費等が持ち直して、結果的には国民一人当たりの消費量が135㎏という高水準に至って業界としては良好な結果となったそうです。

↑パラグアイで販売されている生乳の多くはプラスチックの袋に入って販売されています。紙製函入りが常識の日本人にとっては非常に変な包装ですが、実はカナダや中南米各国で一般的な形態です。長期保存用のロングライフ牛乳は函に入っており、物流コールドチェーンが発達していない地方向けには重宝されますが、味が良くないので普段使いには好まれません。生乳の1ℓ袋の値段はGs.3,500~4,000、日本円では50~60円といったところで、かなり安いイメージ。

世界各国の一人当たり消費量は以下のサイトで確認できますが、牛乳の消費量は欧州がダントツで、一人年間200ℓ近いイメージ、米国も250㎏とハイレベルですが、南米も150㎏前後で相当な高水準です。
https://ourworldindata.org/grapher/per-capita-milk-consumption?time=2017
この統計ではパラグアイは71㎏で、日本の59㎏ほどは低くないものの、世界では中くらいの位置づけとされています。しかし、ベネズエラ・ペルー・ブラジルと暮らしてきた実感としては、生乳だけでなくチーズやバター等の消費量も含めると、パラグアイの乳製品は消費量も質もレベルはかなり高い印象です。

一人当たりGDPが豊かさの指標とされることに違和感を唱え続けてきましたが、恐らく乳製品の消費量で図ると生活の豊かさが見えてくるように思います。

アレグアというアスンシオン近郊の町が歴史的な建物を改築することで人気の観光スポットになったという記事も今日のおすすめ。コロナ禍にあって海外旅行が出来なかった夏の行楽地としてアスンシオン近郊が見直されている点は、近場を見直そうという世界の風潮と一致しています。
https://www.lanacion.com.py/gran-diario-domingo/2021/01/17/cafe-con-sabor-a-historia/

最近の雨でパラグアイ川の水位も上昇していますが、まだ安全な航行レベルには達していません。しかし、昨夜降った雨でコンセプシオン市では冠水も発生した様です。これから雨の時期になりますが、空模様にも気が抜けない日々が続きそうなパラグアイです。

「1月25日発」

パラグアイで生活して便利に感じることの一つが、クレジットカードで受けられる割引サービスです。ドイツ系の高級スーパーCasa Ricaでは、毎月一回、BBVA銀行発行のクレジットカードで支払いをすると全ての商品が二割引きになります。別の高級スーパーDeli Marketでも、Itau銀行のカードで最大25%引きになる特売日が設定されています。他にも、別の銀行で発行されたカードでガソリンが割引になったり、レストランで割引が受けられたりと、様々なサービスがありますが、スーパーの全品二割引というのは世界中探してもパラグアイだけじゃないでしょうか?

そのCasa Ricaで大いにメリットを提供してきたパラグアイBBVA銀行ですが、2019年にスペインのBBVAグループからコロンビアを本拠とするGilinskiグループの GNB銀行に買収され、今週遂にGNBがBBVAの吸収手続きを開始したとの発表がありました。

パラグアイにおけるBBVAとGNBの関係は、預金量・預金者数ともにBBVAが上位で、GNBの存在感はあまり大きなものではありませんでしたが、今回の吸収合併により、GNBの名前が大きくなることは確実。ペルーにもGNB銀行はありましたが、やはり目立たない存在というイメージでした。今回の吸収合併により、今後はかなりの存在感を示す大手行になることは確実。しかし、それでも店舗数や顧客数では更に上位のVision/Familiar/Itauの御三家には届かない状況で、知名度の低いGNBが著名なBBVAを吸収して、どのようなブランディングを展開して成長戦略を描くのか?は大いに興味をそそられるところです。

ところでパラグアイにおける新型コロナですが、今日現在発表されている感染者数は127081人。このところ毎日ほぼ千人の新規感染が報じられていて、直線的な伸び率を示しています。年齢別でみると、25-29歳が全感染者数の15%を占めますが、総人口に占める若年層比率が高いパラグアイですので、若者がリスクを恐れず感染を増やしているという単純な話は当てはまりません。

一方、検査数に対して20~30%の確率で感染が確認されている様で、この半年間この確率も変わりません。でも、こういう科学的データを公開している点で、パラグアイの保健省は良い仕事をしている様に思われます。

世界中で感染拡大が続いている状況ですが、今日のUltima Hola紙電子版に興味深い記事が掲載されています。「新型コロナから回復した人も、深酒によって再発のリスクあり」というもの。飲酒と感染の関係については諸説ありますが、やはり深酒は免疫力を落としますので絶対に止めましょうという重要なメッセージです。一方、今週は101歳の女性がコロナウィルスに打ち勝ったというニュースも報じられました。

治療法の確立までまだ時間のかかりそうなウィルス対策ですが、全人類が免疫を獲得するまで、感染対策をシッカリ行って元気に過ごすことを心がけましょう!