米国人の若き人類学者プエル・クレインが、ヴァルガス大統領の独裁「新国家体制」下であった1939年8月に、フィールド調査に赴いたアマゾン河支流シングー川近くクラホー族の集落で、実に不可解な形で自ら命を絶った。その80年後に「私」はアマゾンでドイツ人人類学者が原因不明の死を遂げたとの記事をきっかけにクレインの死について究明すべく取材するというのが粗筋である。米国の文化人類学者で太平洋戦争中の日本研究論『菊と刀』の著者であるルース・ベネディクトの弟子あったとされ、先住民にはカントゥヨンと呼ばれていたクレインに会ったことのある老人に会って話しを聞いた「私」は、公式の報告との食い違いがあったことを知るが、クレインの死の原因は結局はっきり理解出来るものではなかった。
著者は「事実、経験、実在の人物に基づいているが、フィクション」と述べているが、人類学者が贈り物に持ちこんだ物で「文明」を教えたことで、質素で禁欲的とは限らないインディオが物資を「文明」に求めるようになったが、「文明」が「未開」にとって魅力あるものとしては映らなかった一面もあった。「未開」を「文明」の水準に引き上げるという当時のブラジルの考えは、現在も「未開」と「文明」という区切られた領域の間の問題として継続しているという、訳者あとがきでの指摘はうなずける。
著者は1960年リオデジャネイロ生まれの作家。本書は、東京外国語大学武田千香教授編纂の「ブラジル現代文学コレクション」の6冊目。
〔桜井 敏浩〕
(宮入亮訳 水声社 2020年12月 261頁 3,000円+税 ISBN978-4-8010-0543-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕