連載エッセイ102:硯田一弘 「南米現地レポート」その20 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ102:硯田一弘 「南米現地レポート」その20


連載エッセイ99

硯田一弘 「南米現地レポート」その20

執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役)

4月4日発

聖週間=Semana Santaの最終日がDomingo de Pascua=復活の日曜日、今年の暦では4月4日ということになっています。何故今年は?というのは、以前もご説明した通り、春分の日を過ぎた最初の満月(今年は3月28日)の次の日曜日、と決められているからで、月齢によって毎年浮動しますが、この日曜日を起点に逆算して40日前から復活祭の各種行事が行われる訳です。因みに来年2022年の復活の日曜日は4月17日になります。

昭和30~40年代には日曜学校というプロテスタントの集会が毎週各地で行われていて、主に小学生以下の子供達を日曜学校=布教の場に呼び寄せる手段として、カラフルに色を塗ったイースターエッグや御菓子が配られ、これをキッカケに讃美歌も覚えて子供時代をキリスト教と共に過ごした経験をお持ちの方も多いと思います。しかし、宗教と言うのは「苦しい時の神頼み」と言う言葉が象徴する通り、苦しくない時には重視されず、高度成長期から80年代の充実期には仏教を含め多くの教会が形骸的な脱税集金団体と化して、それが益々国民の宗教離れに繋がったというのが日本の宗教に関する一つの現象と言えるように思います。

戦争が終わって皆がまだ貧しいけど、ともかく一流国の仲間入りを果たそうと一億総中流という意識で頑張ってきた昭和中期はまた、戦争が終わってキリスト教という外国宗教がクリスマスやイースター等のイベントと共に日常化した時代でもあり、今の若い世代に比べると、仏教(仏壇)や神道(神棚)も含めた色々な宗教が身近にあったように思います。

一方、原住民を支配する手段としても世界中で使われたキリスト教は、南米では最もポピュラーな宗教として現在も人々の生活に根付いており、特にカトリックの行事はカーニバル・イースター・クリスマスの三大行事以外にも、各国に独自の奇跡にまつわる行事が出来て、各地域で独自の進化を遂げながらも今も多くの人達の信仰を集めています。日曜日の朝、テレビのチャンネルを捻ると(という言い方自体が昭和ですが)、南米中どの局も教会のミサの中継映像になります。

そんなことで、今日の新聞Ultima Horaで見つけた”Calvario de pasajeros se agudiza y proponen reforma con incentivos”(乗客の道行き環境は悪化して、改善を求める声多数)もてっきりキリストの磔刑までの道のりを示した宗教関連の記事と思いましたが、なんと、以前お伝えした公共バスの非接触型カードが上手く作動しなくて困っている人が大勢出ているというニュースでした。特にこのセマナサンタの間は新型コロナ対策として昨年同時期並みに外出規制や移動制限が強化されたこともあってバスの便数も大幅に減り、結果としてどのバスも満員状態になって、密な状態が増えたと書かれています。

磔の為の十字架を背負わされてゴルゴタの丘(スペイン語でCalvario)を登る道行きには、viacrusisという言い方もありますが、今日のUltima Hora紙はその両方の単語を使ってコロナ禍に苦しむ人々の様子を伝えています。
La solidaridad ante el Covid mitiga el Vía Crucis en los hospitales(コロナ禍に対する結束が十字架を背負った病院関係者の苦しみを軽減する)


教会の牧師たちが医薬品等の寄付を募って病院関係者と協力する様子。

でも、バスが動いたり、教会の協力があるだけマシという見方もできます。またまたベネズエラの友人から届いた映像では、ガソリン不足に悩む国営石油会社PDVSAのローリー車を大勢の人力で押して動かしています。70年代から80年代にかけては世界最大の企業の一つで、米国のガソリンスタンドやセブンイレブンも傘下に置いた大企業がこの有様。これこそが現代の十字架と言えるのかも知れません。

南米で最も豊かだった90年代初頭までは、ベネズエラではガソリン代はタダの様なものでしたから、30年後のこの姿を予想した人は全くいませんでした。コロナ禍という困難はあるものの、物質的には恵まれた暮らしを享受出来ていられる今の日本も、この状態が未来永劫続くわけではありません。ほんの70年前は貧しかったということを、朝ドラでも良いので学習して、ベネズエラの様にならない努力を日々重ねていかなければなりません。これこそが、「他山の石」というもの。

4月11日発

感染拡大に歯止めがかからない新型コロナことCovid-19ですが、パラグアイの隣国ブラジルが世界でも最も深刻な状況に陥っていることは周知の事実となっていますが、今日はそのニュースから。ブラジルで最も感染拡大が激しいサンパウロ近郊のSapopemba地区の厳しい現状を報じるFolha紙電子版。Vacinação de idoso é menor na periferia de São Paulo「サンパウロ郊外では高齢者層へのワクチン接種は遅れ気味」というタイトルで、感染最多のサンパウロ州の中でも、この地域は医療支援体制も未整備で死者の数も多く、多くの高齢者が取り残されているという趣旨の記事。


貧民街を見下ろすように走る最新鋭のモノレールの写真が超印象的です。

南米の公共交通は、一般的にはバスが主流で、ブラジルには3連結の超長尺バスも走っていて、乗り物ファンには見逃せませんが、他にもこんなユニークな乗り物があります。

以前もお伝えしたリオやコロンビアのメデジン、ボリビアのラパス、ベネズエラのカラカスではロープウェイ=MetroCableが公共の足。いまや世界でも最も多くのMetroCable路線を持つボリビア・ラパスの映像を日本語でどうぞ。

アルゼンチンのブエノスアイレス地下鉄や、ペルーのリマ高架鉄道では日本の地下鉄の中古車両が使われているのは有名です、https://cincodias.elpais.com/cincodias/2019/02/28/companias/1551334847_165174.html

しかし、ユニークさにおいて負けていないのがベネズエラ・カラカスの牽引式車輌を使ったモノレール風交通機関Cabletren。

欧米の大空港ではお馴染みの乗り物ですが、街中を走る姿は優美さを感じさせます。カラカスに住んでいた頃、建設の様子を見ながら「こんな細い橋脚で大丈夫かな」と不安を感じていましたが、車輌自体が駆動系を持たず、基地で引っ張る方式なので、重さがかからず比較的安価なコストで建設できるようです。とは言え、カラカス以外ではこのシステムが導入されているところは見た事が無いのが現状です。

公共交通網の整備は中南米に限らず、中心国の共通課題ですが、ゴチャゴチャの道路網を活かしながら如何にスッキリした交通システムを導入するか?は各国の大きな課題。アスンシオンにおいては、ブラジルやコロンビア・ペルーなどで導入されているバス専用レーンの整備を進めていましたが、途中で資金切れになって頓挫。しかし、アフターコロナの中南米では、こうした公共交通の整備再開が大きな投資の対象になることは確実と思われます。

そのコロナ感染ですが、ブラジルでは今週木曜日に一日当たりの死亡者が4249人となって過去最多を記録しました。一方、パラグアイは昨年3月からの累計死亡者数が4749人、ブラジルの一日分という感じであるものの、いままでもお伝えしてきた通り、病院は逼迫状態にあり、予断は許せない状況に変わりはありません。開放され続けているブラジルとの国境から多くの人達が流入しているとの批判もあって、今週7日から新たにブラジルからの来訪者は到着後7日間は外出を禁じられることになりました。世界の国境が封鎖を解いて、色々な乗り物での行き来が出来るようになる日を鶴首して待つ日が当分続きそうです。

4月18日発

今日のLa Nacion紙の電子版に、昨年のパラグアイへの外国直接投資が前年を8.9%上回って過去最高の68.8億ドル(約7500億円)に達したとの記事が掲載されています。
https://www.lanacion.com.py/negocios/2021/04/18/la-ied-aumento-89-en-el-2020-segun-datos-preliminares/

東京オリンピックへの投資額が1兆6440億円とのことですから、昨年一年間のパラグアイへの投資額も相当大きかったことが実感できます。また、パラグアイのGDPが356億ドルであることを考慮すると、昨年の直接投資が如何に国民経済に大きな影響を与えるものであるか理解できます。日本のGDPは540兆円ですから、1.6兆円を投資したオリンピックを簡単には止められない関係者のご苦労も理解できます。

パラグアイでは外国からの投資が活発なことで、通常であれば収穫した大豆の売却で例年3月頃グアラニ高となる対ドルレートが、今年は4月になっても高止まりした状態となっています。つまり、ドルを持ち込んでグアラニで支払う投資が今年も止まっていないということでしょうか。昨年11月上旬に歴史的安値となるGs.7,000/US$を突破し、そのままダラダラと通貨安を維持すると思われたのですが、今年に入ってからの国際的なドル高局面でもグアラニは高値を維持し、結果として近隣のブラジルやアルゼンチンに対しては、益々割高な通貨としての地位を維持することになっています。視方を変えれば、外国からの投資の多くが近隣諸国からの資産逃避であるとも想像されます。市内を見回しても、コロナ禍で物販などの景気は必ずしも良くないのですが、建設投資だけは止まっていません。

今日はまた、粉ミルクの輸出が増えたことで、業界にとって初の利益を計上できたとの記事も掲載されています。パラグアイは大豆・トウモロコシ・小麦・コメ等の穀物や、胡麻・チアシード等の雑穀、畜肉の生産と輸出の大国ですが、乳製品に関しては保存技術の問題などもあって、大きな割合を占めてはいませんでした。
しかし、この粉ミルク輸出黒字化のニュースは、今後益々加工食品への投資を増やす要因になるものと期待されます。

4月25日発

日本で第三弾の緊急事態宣言が発令され、映画館も営業を停止するというニュースに驚いています。パラグアイでも、昨年3月から年末まで政令により映画館も劇場も閉鎖されており、年が明けて再開していますが、感染対策の為に極端に入場者を絞っており、客席は一列ごとに完全に空けて、かつ横は二人の席の隣も二つ空ける、横20席x縦10列とすると本来満席なら200人が鑑賞できる部屋で、50人しか容れられない状況。
それでも閉館を余儀なくされるよりはマシです。で、金曜の夜一回だけの上映となるアカデミー賞候補作「Nomadland」を観に行ってみました。チケットも非接触のQRコードです。結局僕を含めて3組だけが200人以上入る部屋を独占して、静かな作品を静かに鑑賞できました。一方、日本でも記録的な人気を集めた「鬼滅の刃」も上映が始まり、こちらは毎日13回の上映なのですが、昨日も今日も全ての回が満員御礼。アニメの人気はパラグアイでも強烈です。

さて、格差是正の掛け声にも拘わらず、色々な面で女性の地位が高まっていないとの報道が日本でも目立ちますが、今日のABC Color紙の経済面特集は、具体的なデータを示しながら中南米における格差の実態と是正に向けての挑戦について報じています。
“Paraguay ante el gran desafío de diseñar estrategias para reimplusar el empleo femenino” (パラグアイは女性の雇用格差是正に向けた挑戦に直面)
https://www.abc.com.py/edicion-impresa/suplementos/economico/2021/04/25/paraguay-ante-el-gran-desafio-de-disenar-estrategias-para-reimpulsar-el-empleo-femenino/
コロナ禍で飲食や観光等の分野で多くの会社が厳しい環境に置かれ、失業する人達も増えていますが、特に女性の就労機会の逸失はどこの国でも顕著なようです。

パラグアイの場合、自動車部品を製造する日本企業が複数進出しており、その工場では従業員の7~8割が女性であり、大いに格差の是正に貢献しています。どの会社も雇用だけでなく、教育の充実にも力を入れており、こうした面での日本企業への進出期待も益々高まっています。

一方で、米国カリフォルニア ルーテル大学でパラグアイ人女性教授が年間最優秀教員に選出されたという明るいニュースも流れました。
https://www.ultimahora.com/paraguaya-es-premiada-como-la-mejor-docente-universidad-eeuu-n2937474.html
まだまだ時間がかかりそうな新型コロナという名の鬼退治、変異株対策への挑戦も続きそうですが、くれぐれもお大事にしてください。