本書は、著者が関わったNHK ETV特集番組の「“クルド難民”家族の12年」(2019年6月22日放送)と、静岡県の団地に暮らす日系ペルー人の家族を取り上げた「“日系南米人”団地物語」(2016年11月16日放送)の取材を通じて、日本での移民・難民の現実を述べたものである。日系三世が「夢を実現できる日本」と信じ出稼ぎに来たものの、派遣の職を転々とし「短期的に活用できる労働力」として扱われ、日本生まれの息子は学校では「ガイジン」と蔑まれ、親子は居場所を探り続ける。磐田市の県営東新町団地は半数以上が日系人や外国籍人が居住している。日系人の多くは自動車部品や機械の工場で派遣労働者として、一家は母が日系人であることから1991年に来日、1989年の入管法改正で日系人に与えられるようになった「定住者」資格で入ったのだが、
著者は法務省でこの法改正の中心にいた元官僚に経緯と当初想定していた姿を取材した。外国人労働者の導入に賛成の経済界と経済官庁、移民受け入れに繋がると反対の法務省・労働省との間で、日本人の血筋を引く日系人を特例としたのは時代の絶妙なタイミングだった。
しかし、受け入れた地方での彼らの日本語教育、生活や子弟教育の環境整備なしでの安価な労働力としか見られず、リーマンショック後の景気後退期には真っ先に切り捨ての対象になった。一部の日系人は日本政府の帰国支援金(但し、当分の間定住者としての再入国不可)を受け取って帰ったが、多くは残った。遠い親戚との交流が始まった家族、団地内での日本人社会と少しずつだが壁が好くなってきたと感じる者も増えてきた。まだまだ日本では「他者と生きることは複雑」であり、「差別と無関心」があるのだが、外国人の受け入れが経済や人口の問題を主眼とするのではなく、移民であれ難民であれ「人間」として人権を保障があるべきだと著者は訴えている。
〔桜井 敏浩〕
(論創社 2021年5月 232頁 1,800円+税 ISBN978-4-8460-2022-4 )