『カランヂル駅 ―ブラジル最大の刑務所における囚人たちの生態』 ドラウジオ・ヴァレ-ラ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『カランヂル駅 ―ブラジル最大の刑務所における囚人たちの生態』 ドラウジオ・ヴァレ-ラ 


サンパウロの地下鉄カランヂル駅近くにあるブラジル最大の刑務所は、慢性的に過密状態が続き8,000人を超える囚人に対して丸腰の僅かな人数の監視しかいない。囚人は内部での移動、面会人の女性とは房での同衾も可能、囚人は「借金を返す、仲間を売らない、他人の客は尊重する、連帯と相互の利他主義を実践する」などの紙に書かれていない刑法によって厳格に自己統制されている。著者は腫瘍医で1989年からこの刑務所の医師として中に入り、囚人達の信頼を得て彼らの話に耳を傾け、驚くべき実態を語らせているが、本書の目的は旧態依然とした矯正制度の告発でもブラジルの犯罪状況解決策への示唆でも、犯罪者の人権を訴えるものでもないと言っている。
この刑務所で1992年に囚人間のいざこざから大きくなった騒乱に軍警が説得しようとする所長を押しのけて介入し111名が虐殺され制圧された事件が起きた。この事件をきっかけに警察組織の蛮行に対して犯罪者たちは大規模な組織化で対抗するようになり、本書が示唆していた刑務所内の運営は派閥を操ることが秘訣である程度秩序を保てるとされていたやり方は、その後囚人の大半を巨大犯罪組織構成員が占めるようになって所内での犯罪組織間の抗争の負の連鎖が跋扈し、もはや軍警の機関銃では到底太刀打ちできない状況になっているという。

 〔桜井 敏浩〕

(伊藤秋仁訳 春風社 2021年3月 362頁 3,600円+税 ISBN978-4-8611-0695-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年夏号(No.1435)より〕