アルゼンチン・タンゴの魂と言われるバンドネオンの奏者として日本を代表する著者が実体験を元に纏めたタンゴの価値を理解するための最低限の知識と、アートとしてのタンゴを知って欲しいと纏めた大部な著作。全18章からなる本書は、「情熱のタンゴ」は本当か?から始め、タンゴの起源、歴史と変遷、今に遺る曲は名曲だからか名編曲がなされたかが問題であること、タンゴのリズムの基本、バンドネオンとアコーディオンの違い、タンゴ黄金時代の創造神と位置づける名演奏家たち、華麗だけではないタンゴダンス、アルゼンチン・タンゴの厄介な隣人と比喩する欧州発祥のコンチネンタル・タンゴ、ドイツで作られたバンドネオンの種類と確立に至るまでの狂騒曲、著者が独断で選んだギター、バンドネオン、バイオリン、ピアノ、コントラバス演奏者と歌手の列伝、映画・クラシック、ジャズ等門外漢が取り入れたタンゴ、もう一つのタンゴの祖国ウルグアイ、チェロの名演奏家ヨーヨーマはじめ作曲家のアストル・ピアソラを愛し過ぎる人々、バンドネオン奏者のアウトローたち、ドイツのバンドネオン製作史の秘話、さらに北欧やロシア、ナチスの絶滅収容所でのタンゴ演奏とヒトラーも好感をもっていたタンゴなどの逸話、戦前・戦後の日本でのタンゴブームを担った演奏家と歌手のタンゴ楽団来日の歴史、最後にバンドネオンの発達と亜種の謎に迫る140年の歴史に至るまで、ありとあらゆるタンゴとバンドネオンの蘊蓄が広範に盛り込まれている。
タンゴをはじめラテンアメリカ音楽の研究者である西村秀人(名古屋大学准教授)のコラムや章の初めに音源・動画・アルバムの二次元コードが付されて演奏等を見ることが出来る工夫がなされており、アルゼンチン・タンゴ好きには素晴らしい座右に置くべき書になっている。
〔桜井 敏浩〕
(旬報社 2021年4月 432頁 4,000円+税 ISBN978-4-8451-1679-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年夏号(No.1435)より〕