「土木」とは“Civil Engineering”、すなわち「市民のための工学」であり、古来よりより良い生活を営むために海・空港、海岸・河川護岸、ダム、道路、橋梁などの構造物をはじめエネルギーや上下水道等のライフラインなど、土木施設は文明の基盤を築いてきた。それらの中で歴史的価値の高い現役の建造物を後世へ人類の叡智として伝えたいとして編まれたシリーズの1冊で、ラテンアメリカから1908年に完成したメキシコのグアナファトの地下都市、1914年に開通したパナマ運河、1535年に創建されたペルーの首都でスペイン諸王の街リマ、インカ帝国を支え16世紀初頭にネットワークが完成した総延長5万kmに及ぶ道路網であるカパック・ニャン(インカ道)、ブラジルのかつての首都リオデジャネイロの岩山の頂へのボンジーニョの愛称で呼ばれる100年続くロープウェイ、1750年に完成し上を路面電車が走る古代ローマ様式のカリオカ水道橋の6つを取り上げている。
それぞれについて、その建設時の歴史の背景、計画の意図、建造工事、完成後のメインテナンスと改良の概要をカラー写真と図解で解説しているが、さらに各項に「日本の類似土木施設」例と「現地を訪れるなら」見どころや現地での注意についてのコラムも付されている。世界遺産の写真集・紀行や旅行案内は数多く出版されているが、土木エンジニアが編纂しただけあって土木技術上の難しさ、工夫も説明されており、その視点、指摘を知ることでこれら建造物の見方、理解が広がることが本書を一層面白くしている所以である。
〔桜井 敏浩〕
(一社)建設コンサルタンツ協会『Consultant』編集部編 ダイヤモンド社 2020年2月 176頁 2,000円+税 ISBN978-4-478-10951-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年秋号(No.1436)より〕