スペイン北部のガルシア地方に生まれ、演劇の作者・俳優として関わり小説も多く出している著者による「独裁者小説」。スペインでの1923年の軍事クーデターで始まった軍部独裁体制下で執筆されたが、単にその体制を批判しようとして書かれたものではなく、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビア、メキシコで輩出した独裁者たちを統合して設定したという、ラテンアメリカの熱帯にある架空の国サンタ・フェ共和国の凶暴な独裁者サントス・バンデラスが、革命軍の蜂起で抵抗虚しく忠実な部下にも裏切られて殺され、死体を晒されるまでの滑稽かつ残酷な2日間の物語。
独特の小説技法、文体、語彙で書かれていて、内容を把握すること自体が容易ではないと感じるか、異様な迫力に惹かれ面白い、こんな小説があったのかと没頭するか、読者によって分かれるかもしれない。19世紀から20世紀初頭のスペイン文学を専門とする訳者(明治大学教授)による著者(1866~1936年)のその時々の出来事と様々な作家の作品も付けた年譜(332~374頁)と、詳細な訳者解題(375~451頁)に全体の1/4が当てられている。
〔桜井 敏浩〕
(大楠栄三訳 幻戯書房 2020年3月 456頁 4,200円+税 ISBN978-4-86488-193-7 )