著者はブラジルのサンパウロ州出身の日系三世。上智大学で修士課程を終え一橋大学で博士号を取得し、上智大学助教やSABJA(在日ブラジル人を支援する会)理事長を経て、現在はカナダ在住。本書は長期にわたる在日ブラジル人の集住地域に住む家族へのインタビューなどを分析した2014年の博士論文を基にしたもの。滋賀県長浜市と愛知県豊田市で、異なる地域産業構造、受け入れの地方自治体の対策あるいは地域住民の姿勢を比較しながら、地域問題や日本人との対立以上に深刻なブラジル出身の移民家族とコミュニティの変容、なかんずく子どもたちの教育問題を注視しつつ実態調査を行った。家族構成の問題では構成員の個人的問題、世帯構成員の複雑化、エスニシティの多様化を、移動形態の問題では「客観的状況」と「主観的世界」の乖離と矛盾、そして分散型居住地の長浜市と集住団地型である豊田市の移住コミュニティの違いを考慮しつつ、家族の形成-再統合-解体-再構築の変容について、実際の事例を上げて分析している。
1990年の入管法改正を契機に急増したブラジルからの移住者に日本語を覚えさせる学びの場を与えず、短期労働者の滞在としか見てこなかった日本政府の移民政策に進展はみられず、労働状況の改善、セーフティネットは依然不十分なままである。30年間の無策の末に、日本語能力を在留資格更新条件とする“政策転換”を行ったが、政府は外国人の「管理」に留まらず正面から政策課題として「移民政策」に取り組む段階に至っており、本書の動向調査がその問題の解決のための基礎資料提供となって一つの貢献となることを期待するという結びの指摘は重い。
〔桜井 敏浩〕
世織書房 2021年11月 378頁4,300円+税 ISBN978-4-86686-021-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021/22年冬号(No.1437)より〕