ラテンアメリカ・カリブ海諸国へのわが国の ODAの展開と現状、事例を踏まえ、この地域の課題を認識してSDGsの促進、日系人の存在と自然環境・生物多様性、新型コロナウイルス感染パンデミックをも考慮し日本の ODA の役割について、学生やNPO等関係者が考えるための基礎的判断材料を提供する趣旨で編纂されたと謳っており、このシリーズとして『日本の国際協力 アジア編 -経済成長から「持続可能な社会」の実現へ』と『日本の国際協力 中東・アフリカ編 -貧困と紛争にどう向き合うか』も同社から発行されていて、わが国ODAを広く各地域ごとに俯瞰しようとした意欲的な試みである。
本書は「序章 SDGs時代の日本のODA」から始まり、「メキシコ・中米(7か国)」、「カリブ海地域(4か国+CARICOM)」、「アンデス諸国(5か国)」、「コーノ・スール諸国(5か国)」に加え、幅広い視点からの7つのコラムから構成されている。各編は編者の解説と比較的若手の主に地域研究者その他の計18名が執筆しているが、中南米でODAを供与することの視点や効果分析、問題提起のアプローチなど、「開発協力」を分析する際の専門性がまちまちであるとの読後感は否めない。記述は資金協力プロジェクトが中心になっていており、中南米でそれなりに効果を上げた医療、教育等の技術協力、草の根協力や無償文化協力の評価にはあまり言及されておらず、また開発協力の実現のために直接関携わってきた国際協力機構(JICA)や外務省等の実施体制側、現場で関わってきた技術協力専門家・協力隊員、コンサルタント、建設施工者等側からみた視点が欠落しているのが惜しまれる。
とはいえ、それでも日本の国際協力を広く網羅し各地域、各国ごとに整理して紹介しようとした本シリーズは、それなりに有用かつ意義ある出版と評価してよいだろう。
〔桜井 敏浩〕
(ミネルヴァ書房 2021年11月 272頁 4,500円+税 ISBN978-4-623-09193-5)
〔『ラテンアメリカ時報』 2021/22年冬号(No.1437)より〕