紀元前14世紀のエーゲ海・地中海に海賊が歴史資料に登場して以来、海賊は東西半球の各地で出没したがそれらの中では17~18世紀にカリブ海で猛威を振るったバッカニアがよく知られている。英国女王エリザベス1世の認可状を受けた私掠船の船乗りを指す「シードッグ」はじめ、女王から爵位を受けたフランシス・ドレイクや副総督に任じられジャマイカの政治を主導したヘンリー・モーガン、二人の女海賊、黒髭の異名で通るエドワーズ・ティーチなど、知れられた海賊の紹介のみならず、難破船からの略奪、わざと難破させて積み荷や装具を奪うレッキングなどの生業、海賊が養う家族と家庭などの生き方、憩いの場である酒場の重要性、海賊が現地住民にもたらした物質文化や商品/金銀貨の取り引き、海賊行為と奴隷貿易の密接な関係、小説や映画などによっても拡散した海賊にまつわる伝説・イメージ、分捕った財宝の分け方や裏切り者の処罰等のしきたり、そして船と武具なども沢山の写真、図で解説されていて、世界の「海賊の生い立ちと盛衰の歴史」を分かりやすくビジュアルに見せてくれる楽しい一冊。(ちなみに海賊旗として一般的な頭蓋骨と二本の交差する骨を描いた旗は、黒地の場合は「命までは奪わないから降伏しろ」という意味で、これが赤い旗となると「皆殺し」を意味したと言われる由である。)
〔桜井 敏浩〕
(日経ナショナルジオグラフィック社 『ナショナルジオグラフィック』別冊 2021年11月 97頁 1,400円+税 ISBN978-4-86313-522-2)