連載パナマ・レポート26:ルベン・ロドリゲス 2022年6月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート26:ルベン・ロドリゲス 2022年6月分


連載パナマ・レポート26: ルベン・ロドリゲス 2022年6月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I.新型コロナウィルスの現状

6月25日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は912,348人、死亡者は8,340人、回復者は887,913人と確認された。パナマのワクチン接種計画に関する情報提供プラットフォームのPanavac-19は、国連公共サービス賞を受賞した。Panavac-19はコロナへの対応、予防対策、ワクチン接種に必要な登録、接種の場所、時間、その他の情報を国民に分かりやすく届くシステムである。このシステムは、ネット診察ロボット(ROSA)や感染の隔離状況確認アプリPACOに構成されている。ROSAは、WhatsApp、Facebook、Twitter、その他のメッセージアプリで、患者に質問をし、その答えによって医者との相談に繋げるシステムである。パンデミック当初では、医者20人が一日600件以上の相談を受け、対応方法を選んだ。保健省は6月22日からROSAのWhatsAppの提供を終了した。

パナマ政府接種計画は、2021年1月中旬に開始し、6月25日時点では約873万2千回分のワクチンが提供されている。政府は今月からコロナ感染症治療薬パクスロビドやモルヌピラビルが使用されることを発表した。

II.政府

A.コルティソ大統領の診断

パナマ政府は、6月20日にコルティソ大統領が骨髄異形成症候群と診断されたことを発表した。専門家のアドバイスを受け、コルティソ大統領はアメリカでセカンドオピニオンを求めることとなった。コルティソ大統領は、7月1日に行われる予定の年頭教書を演説した後、アメリカに移動する予定である。観光促進のインセンティブに関する法の署名ではコルティソ大統領が、大統領としての役割を果たしていると述べた。

III.経済

A.労働環境

6月24日に統計局が発表した報告によると、パナマの失業率は9.9%となり、去年10月と比べると2.4%減少していることが分かった。非公式部門での労働が10月から0.6%増加し、48.2%となった。今年1月から4月の間、公務員が約5000人雇われ、労働局によると、民間企業では約8万件の労働契約が結ばれたが、2019年の同期比に結ばれた労働契約は約14万件であった。2011年から2021年の間、経済的アクティブ人口(15歳以上)は、約40万人増加したにもかかわらず、正規雇用が減少した。同期間では、非公式部門での労働は36.9%から47.6%まで上がった。新型コロナウィルスによって失業率は最大18.5%(2020年9月)まで上がり、パンデミック前の民間企業社員の37%が解雇され、33%の労働契約が停止され、そして、残りの30%のみが労働を継続した。近年、政府が公務員の雇用に専念しているが、ネポチズムまたは汚職により結ばれた契約だと相次いで報道され、国民、および様々な部門から批判の声が上がっている。

B.消費者物価指数

パナマ統計局によると、5月の消費者物価指数は前年同期比4.2%増加している。増加の主な理由は石油の値上げとされ、最も影響を受けている財とサービスは、輸送(16.1%)、レストランやホテル(3.9%)、食材およびノンアルコール飲料(3.5%)、教育(2.5%)、宿、および光熱費(2%)、タバコや酒(1.3%)、家具、その他の日常生活商品(1.2%)、健康およびそれに関するサービスや商品(0.9%)である。それに対して、娯楽や文化(-0.8%)、服や靴(-0.2%)の物価が下がっている。

IV.外交

A.金融活動作業部会(GAFI)のグレイリスト

GAFIは、パナマ政府の対マネーロンダリング措置を認めつつ、ブラックリストからの削除を拒否した。報告ではGAFIがパナマ政府に求めている15目標の中、11件は既に達成されたが、金融情報交換措置が不十分だと指摘され、パマ国外源泉所得の課税対象外原則の廃止が必要とされている。

EUは、2020年2月上旬に、パナマの租税回避地ブラックリストへの追加の検討を発表し、5月上旬に決定した。当時、ブラックリストへの追加決定に対してパナマ政府は、「近年の法律改正や政策を配慮していない上、EUはパナマに対する通知または返答する機会を与えていない」と反論した。租税回避地ブラックリストへの追加前から政府は121か国と税務情報交換協定を結んで、現在でも様々な国と交渉している。今年2月に、アレクサンデル経済財政相は、ヨーロッパ連合諸国の大使と会談し、経済財政に関する透明性、および国際基準を満たすための手段を説明した。しかし、同日(ヨーロッパ時間)に発表されたEU租税回避地ブラックリストにパナマは記載された。

これを受け、パナマ政府は、透明性強化のため、ペーパーカンパニーの削除を積極的に行い、現時点では、パナマで登記されている70万以上の会社の半分は登記抹消となった。さらに、コルティソ大統領は4月28日に国会で可決された仮想通貨に関する法律がGAFIの基準を満たさないため、一部拒否した。

B.中国との自由貿易協定の交渉

アメリカで開催された米州首脳会議でコルティソ大統領はパナマと中国の自由貿易協定の交渉再開予定を発表した。3月、パナマ政府はアメリカ政府に、2012年に結ばれた自由貿易協定の再交渉を提案したが、アメリカ政府は、再交渉の予定がないと返答した。具体的に、パナマ政府は、米、乳製品、牛豚肉および鶏肉の関税について再交渉を求めたが、アメリカ政府の拒否を受け、パナマ産の商品がアメリカで競争できないという理由で中国との自由貿易協定を再開することとなった。

パナマと中国の自由貿易協定に関する対話は、2017年から2019年まで行われたが、2019年の総選挙で当選したコルティソ大統領が交渉を停止した。パナマ商工農会議所のデ・イカザ会議長は、アメリカで販売できない商品を中国で安易に提供することができないため、中国との交渉は慎重に検討すべきだと述べている。現時点では交渉の再開、およびその内容は不明だが、コルティソ大統領は農業を中心としたいと述べた。

以    上