メキシコの漫画historietaは、大衆の生活や、思想と深く結びついた民俗文化の表出として描かれているが、メキシコ政府の識字教育キャンペーンより社会貢献したという見方もあり得るほどである。本書は、国際日本文化研究センターが京都の国際マンガミュージアムで催された講演会とメキシコ・イストリエタ紹介を契機に集められた資料や議論から生まれたもの。入門的な紹介、メキシコ社会で「路上の大衆コミック」と呼ばれたイストリエタの精神、国民国家の視点からの歴史や業界の盛衰など、イストリエタの代表的なテーマ「子ども」「ヒーロー」(仮面プロレス「チャト」なども)「恐怖」「革命」の分析、1980年代までほぼ関わりなかった日本漫画との比較、イストリエタの技法に至るまでを、10人のメキシコの大学教授、漫画・大衆文化研究者と国際日本文化研究センター教授、文化社会学者、漫画表現研究者が執筆し、メキシコ出身で文化社会学を専門とする国際日本文化センター研究員の編者が纏めている。メキシコ大衆文化を漫画から解説しようとしている、おそらく日本で初めての論考集。
〔桜井 敏浩〕
(思文閣出版 2022年3月 374頁 6,600円+税 ISBN978-4-7842-2029-8)
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕