先史時代から1492年のコロンブスの到達を契機に欧州諸国の進出、植民地支配、先住民へのキリスト教布教、植民地有力階層の形成、プランテーション型植民地経営、スペインのエンコミエンダ制支配など17世紀までの南北アメリカ大陸の歴史を解説した優れた解説書。
南北アメリカから見た世界史(安村直己青山学院大学教授)の展望から説き起こし、アンデスとメソアメリカにおける文明の興亡(関 雄二国立民族学博物館副館長)、マヤ人から見たスペインによる征服と植民地支配(大越 翼京都外国語大学教授)の問題提起、アンデス布教と先住民社会(網野徹哉東京大学教授)、16世紀メキシコからみたグローバルとローカル(横山和加子慶應義塾大名誉教授)、17世紀フランスの植民会社とアンティル諸島(大峰真理千葉大学教授)、中央アメリカの植民地経済とスペイン(小原正慶應義塾大学准教授)、そして徳川家康のメキシコ貿易交渉と日本の「鎖国」(清水有子明治大学准教授)に至る17世紀までの変容する世界のあり方を先史時代から説き起こし、独自の文化を築いてきた多様な先住民社会が、コロンブス以降の西欧諸国による植民地化にいかなる影響を与え、その過程をどう生き抜いたのかを、そして大西洋と太平洋が接続され日本も含むグローバルな諸関係が形成されるまでの変容してきた世界を、先住民と他集団のせめぎ合いという視点から捉え直そうとしている。この地域の歴史の焦点を、北米部分を含め10名の研究者の論考と興味深い5本のコラムで論じている。
一般の歴史解説書が地域別通史として構成するのに対し、全24巻の本講座は紀元前から14世紀までの地域別時代史と、14~19世紀を「構造化される世界」という国家の形成史として、それぞれの地域毎に述べている。南北アメリカ大陸については、本書の後巻として17世紀後半から18世紀までと19世紀の15、16巻を予定しており、1900年以降現在までについての世界全体を俯瞰する計画である。
〔桜井 敏浩〕
(岩波書店 2022年2月 314頁 3,200円+税 ISBN978-4-0001-1424-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕