UNESCOが1950年に人種を不平等の根拠にする・人種主義を科学的に否定する結論を出しているが、政治・社会的現実として人種は存在する。「欧州人は人種主義者だからアフリカ人を奴隷にした」というのは逆で、特に黒人(ニグロnègre)を奴隷にしたことから人種主義者になったことを、奴隷制度、サハラ以南のアフリカにおける奴隷制、アメリカの発見までの奴隷制の再構築後、次の暗黒時代となった17世紀のブラジル・カリブ地域における砂糖プランテーションでの黒人奴隷制、南北アメリカでの奴隷貿易の歴史を辿り、それらへの異議の高まりの一方で一時期米国の奴隷制維持とフランスの奴隷制復活があったが、19世紀奴隷貿易廃止運動や中南米諸国々の独立によって大西洋経済への打撃による植民地の転換が奴隷制を終わらせた。しかし、替わって雇用形態を取る奴隷制が世界各地で広がり、人種の科学は植民地統治のための科学となってきたのである。
20世紀に入って工業賃金労働者と都市経済の優位化によって、植民地計画とプランテーション経済は二次的なものになったが、人種の分断はむしろ活性化され、社会科学、医学、政治、政策における人種における学説の驚異的進展、そしてある国々では人種問題が社会問題を提起する方法になり得たかを最後に分析し、「白人の秩序」が獰猛な側面を見せるなか、依然最後の砦を維持していることを指摘している。
〔桜井 敏浩〕
(児玉しおり訳 明石書店 2021年10月 376頁 2,700円+税 ISBN978-4-7503-5230-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕