ラテンアメリカ(中南米)では、2021年から2022年に数多くの大統領選挙があり、相次いで左派系大統領が選出されている。10月に行われるブラジルでの大統領選の結果如何では、ラテンアメリカの6大経済国が左傾化することになる。本稿ではこの傾向の背景を考察し、バイデン政権のこれら左派政権との関係構築を一考する。
目次と要旨は以下の通り。
<目次>
1.最近のラテンアメリカ左傾化の背景
(1)コモディティーブームに支えられた2000年代のピンクの潮流
(2)左派政権に続く保守・右派政権の遭遇した試練
(3)ラテンアメリカにおける新しい左派政権の発足
2.一枚岩ではない新しい左派リーダー
(1)左派政権誕生の背景に関する専門家の分析
(2)新しい左派リーダーの立ち位置
3.新しい左派リーダーと米国との関係
(1)トランプ前政権下でのラテンアメリカ政策
(2)地域同盟の行方:ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)に注目する中国
(3)バイデン政権の新左派政権との関係構築
要旨
2000年代のラテンアメリカの左傾化、所謂ピンクの潮流(ピンク・タイド)とは異なり、今回の左傾化は、ラテンアメリカが思想的に左傾化したというより、現職大統領、既成政党、エリート政治家への国民の反発を表している。就任した左派大統領の共通項は社会福祉政策の拡充ではあるが、前回のピンクの潮流を支えたような、中国の経済成長に牽引された世界的なコモディティーブームはなく、コロナ禍で膨れ上がった財政赤字とインフレにより、公約に挙げている大胆な社会福祉政策も困難となろう。
人権擁護、妊娠中絶、気候変動などの問題に前向きな新左派大統領も存在する一方、左派、右派大統領に拘わらず、社会的な保守化も見られる。このように多様な立ち位置の左派リーダーを迎えたラテンアメリカの左傾化はピンクの潮流の再来とは言い難い。財源不足を含めた大きな課題を抱えた新しい左派リーダーの政治生命は長続きしないと予想する専門家も少なくない。
一方、気候変動や人権擁護などの共通項に関して、米国の良いパートナーとなり得る政権もある。しかし、米州におけるロシアと中国の脅威に対する安全保障上の警戒が益々強まることは間違いなく、バイデン政権には、時には価値観を超えた新左派政権との協調も必要となろう。
2022.09.01 レポートを会員限定→一般公開に切り替え