執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
パラグアイの名物のひとつとして、路上のチパ売りというのがあります。
チパ(Chipa)というのはタピオカ粉とチーズを練って焼いた硬めのパン。小麦粉は使っていないので、最近はグルテンフリーの健康食としても注目されています。
ブラジルには同じ原料で作るポンジケージョ(pão de queijo)というモチモチのパンがありブラジルではどこでも売ってる国民食ですが何故か国境を渡ってパラグアイに来ると、これが硬いチパになるのです。
ブラジルではチパを見ないし、パラグアイではブラジル料理店以外でポンジケージョを見かけることは滅多にありません。不思議なものです。
因みにチパの作り方ビデオを見つけましたのでご覧ください。
パラグアイでは全国至る所でチパを売るChiperiaという販売所が道端にあって、その販売所のチパを肩や頭に載せて売り歩く売り子の姿も特徴的な光景です。https://www.youtube.com/watch?v=Z0LvTYT54L8
今回ご紹介する記事は、その路上のチパ売りが道路の再開発によって居場所を追われ、移転先が無くなって廃業の危機に瀕しているという話。
全国のチパの中でもとりわけ有名なのがアスンシオンからエステ市に向かう国道二号線で、巡礼の街カアクペを過ぎて峠を降りた辺りにあるMaría AnaとLeticiaです。これらのチぺリアでは、一般の消費者は勿論、長距離バス・トラックが必ず立ち寄る休憩所を兼ねており、しばしば店の前で渋滞も発生するほど。
https://chiperialeticia.com.py/
チパは道路脇にクルマを寄せて買うスタイルなので、国土交通省MOPCが進める高速道路の近代化にはそぐわないと看做されているようで、チパだけにとどまらず、今まで路上販売で生計を立ててきた色々な稼業の人達から仕事を奪うことになっているとの懸念が報じられています。道路が整備され、渋滞が無くなって長距離の移動が益々便利になる反面、伝統的な職業が失われることになり、こうした人達の再配置にも政府の配慮が必要になっていると思われます。
今週はFBIがトランプ前大統領の私邸を家宅捜査し、国家機密文書を捜索したニュースが大きく取り上げられましたが、パラグアイでもexpendiente 68(書類番号68番)というキーワードが政界に激震をもたらしました。
わずか3週間前の言葉「sanción=制裁」で前大統領のオラシオ・カルテス氏が米国政府から入国禁止等の制裁措置を受けたことをお知らせしましたばかりですが、今週金曜日に現職の副大統領であるHugo Velázquez氏が著しく腐敗した政治家であるとの米国政府からの認定を受けたことで突然辞任、更に有力候補と目されていた来年の大統領選への出馬も取り下げて政界引退を表明しました。
ベラスケス氏はMario Abdo Benítez大統領を実質的に操る陰の大統領とも言われており、次期大統領選でもカルテス氏が擁立するSantiago Peña氏と激突すると目されていた人物だけに、パラグアイ政界では大きな混乱が生じています。
https://www.hoy.com.py/nacionales/marito-sabia-que-bomba-de-eeuu-iba-a-caer-cerca-revela-velazquez
ベラスケス氏は、これまでも公共事業等での黒い噂が出回っていたものの、与党内でのカルテス派との対立軸として、また現職の副大統領として相当の政治力を発揮してきた大物です。その重要人物が突然政界を去ることになったことで、パラグアイ政治が今後どのような方向に向かうのか先が読めない展開になってきました。
今週体調を崩して緊急入院が報じられた左派代表のFernando Lugo元大統領は、元気な姿を見せて「自分達に出番が回ってくる」という趣旨の発言をして、敵失を利用しようと動き出した模様です。
左派の陰には中国が居ますから、米国の制裁が中国を利する結果に結び付かないよう冷静な対応が必要とされる政局です。
ところで、欧州での旱魃の影響で、ライン川の水位が低下してドイツの燃料輸送が困難になっているとのニュースが報じられました。https://www.youtube.com/watch?v=Tc5ngQFIEZ4
実はパラグアイでは今年もまた水位低下の懸念が生じており、今後の水運への影響が懸念され始めています。 https://www.neahoy.com/2022/08/06/preocupante-descenso-del-rio-paraguay-repercute-en-la-economia-paraguaya/
日本では政治と宗教の関係が話題の中心になっているようですが、喫緊の課題である気候変動問題の解決は神頼みとはせず、人間がシッカリ向き合うテーマであることもニュースから学ぶべきですし、関係書類を破いてトイレに流すということの無いよう真面目に取り組みたいものです。
土曜日のLa Nacion紙の一面を飾ったのはアスンシオン近郊にカルテス前大統領が所有する企業グループが建設中のChajha屠畜場の順調な進捗を報じるニュース。
https://www.lanacion.com.py/negocios/2022/08/19/frigorifico-chajha-empezara-a-operar-en-febrero-de-2023/
記事によるとこの屠畜場は最大一日1000頭の屠畜能力を持ち、更に将来的には1200頭まで拡張できるとのこと。この新工場の近隣にはNeulandというチャコ地方の農協が運営する一日800頭処理能力のある屠畜場や、この屠畜場から出る牛革等を処理する皮革工場があり、NeulandとChajhaを合わせると2000頭近くの牛が屠畜される一大畜肉生産地域になります。またこの近くにはセメント工場やレンガ工場、電柱製造所や下水処理用の大口径樹脂パイプの工場なども出来上がり、大工業地域に発展してきています。アスンシオンの川向こうにあるこの地域に初めて足を踏み入れたのは2018年、僅か4年前ですが、当時は一部の工場の建設は行われていたものの、4年後にこんなに開発が進むとは全く思いもよらない鄙びた寒村というイメージのエリアでした。
La Nacionの見出しでは”Un paso adelante en la industria carnica”(畜肉産業前進の一歩)とされていますが、こうした産業の進出に伴って整備される道路や町の様子を観ていると、一歩と言わず何歩も速足で進んでいるという印象を強く受けます。
adelanteは、「前に」という副詞としてよりも、日常では「お先にどうぞ」という動詞として頻繁に使用される単語です。ブラジル在住の先輩と以前話して教えて貰ったのですが、スペイン語と極めて近い関係にあるポルトガル語ですが、何故かポル語にはこのAdelanteに相当する言葉が無いのだとか。人に道を譲るなんてありえない、競争心に満ちたブラジルならでは、ということでしょうか。
ブラジルで生活していた時にもう一つ先輩から注意されたのが、Propina(プロピーナ)という単語の使い方。スペイン語では「心付け」とか「チップ」という意味で、ポルトガル語でも元々はそのような意味であったものの、汚職の報道が頻繁にあるブラジルではいつの頃からか「賄賂」という意味で多く使用されるようになり、普段の会話では使いにくくなったとのこと。結果的に、サービスを受けた時に心付けを渡すときは「Para Cafezinho」(コーヒー代にどうぞ)と言うのが一般的になっているようです。
カルテス前大統領自身もブラジル流Propinaの噂が絶えない一方で、屠畜工場やセメント工場などに積極的に投資を行っていて、こうした産業が成長を遂げて国を富ませているのも事実であり、先週の政敵失脚の報道の後でも自社グループが持つメディア等を通じて露出度を高めています。因みにLa Nacion紙もカルテス氏が持つ新聞で、同じグループにUnicanal等のテレビ局やラジオ局も複数持っていて、米国が持つ負のイメージとは対極的な宣伝活動が自然な形で行われ、民心を掌握して前進しています。
旧統一教会と政治家の癒着が毎日のニュースとなっていますが、パラグアイでは史上初のローマカトリック教会の枢機卿にAdalberto Martínez氏が任命されたことが大ニュースとなっています。https://svaticannews.va/ja/pope/news/2022-08/concistoro-per-la-creazione-di-nuovi-cardinali-20220827.html
バチカンを総本山とするローマカトリックには226人の枢機卿が在職していて、平時は夫々の出身国で布教活動を行っています。パラグアイは中南米の中でもカトリック教徒が多いことで知られていますが、パラグアイにおけるローマ教会の布教活動については、1986年の映画『ミッション』で描写されているように、土着の原住民をキリスト教に改宗させて、法王庁と対立したスペイン王朝との確執によって多くの犠牲者を出したことで国民の間の信仰心も非常に強いと感じられます。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
現在の教皇はご存知の通りアルゼンチン出身のフランシスコ法王で、今回新たに任命された枢機卿の多くは北半球の人達ですが、アフリカからの3人と共に、南半球から任命されたMartínez枢機卿の今後の活躍が期待されます。今回の任命式には当然のこととしてMario Abudo Benitesパラグアイ大統領もバチカンに同行していますが、パラグアイでは政治と宗教の癒着を問題視する声は全く上がっていません。
日本で何故統一教会だけがやり玉にあがるのか?また今までお世話になった教会にいきなり後ろ脚で砂をかけるような政治家達の姿にこそ、大いなる違和感を感じます。