連載エッセイ179:アルゼンチンで日本人が気をつけたいマナー ③ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ179:アルゼンチンで日本人が気をつけたいマナー ③


連載エッセイ 176

アルゼンチンで日本人が気をつけたいマナー ③

執筆者:相川知子(スペイン語通訳者、異文化コミュニケーター、在ブエノスアイレス)

「怒っているねー角を立てるジェスチャーは要注意」

 

アルゼンチンで日本人が気をつけたいマナーも第三弾ですが、気を付けた方がいいのは日本や日本語では問題ないがアルゼンチン、スペイン語では問題になる行動、言動です。

意外にむずかしいのがジェスチャーです。無意識に出てしまうことがありますので気をつけましょう。具体的な例で説明しますが、「鬼」のジェスチャーの話です。鬼って、頭に二本 角があって、「あの人怒っているねー」というシチュエーションで日本でよく使いますね。
 
あの鬼の角ジェスチャーは、アルゼンチンでは厳禁です。

(多分スペイン語圏で通じるかな?しなくていいですが。。)アルゼンチンでは「牛」を意味するジェスチャーです。これは実際に起こった話です。

 ブエノスアイレス郊外の町で撮影が一週間に及んだときがありました。あのときはまだ携帯電話などもないか、ものすごく高いときでした。ゆっくり話せるのは普通の公衆電話、しかもなかなかロケをしていると時間ってないものです。しかも田舎ですから、電話だってない。電波も弱いし。さらに、運転手のアリさんにとってはガソリンを給油するときがゆっくり電話タイムでした。地方のガソリンスタンドの公衆電話でブエノスアイレスの奥さんに電話を入れていました。どんなことがあっても奥さんに(もちろん夫にも)最低一回は電話をしなければならないアルゼンチンです。携帯が出たばかりのころは一日に三回ぐらいは普通でしたが今はメッセージもありますね。

 やはり日本人と長く働いているとアルゼンチンの人もビミョーに日本人的になっていて、その前日、実はアリさんは電話をするのを忘れていたのです。その翌日またガソリンスタンドで電話して、戻ってきたアリさん、すでに一週間以上寝食を共にしていますから、仲良くなった日本からのスタッフが「お前のカミさん、怒っていただろー、昨日電話しなくてさー」と先の「鬼」のジェスチャーをしたから、大変です。アリさん、顔を真っ赤にしてしばらく棒立ちしていました。もちろん、すぐ気をとりなおして、笑って、行こう、VAMOSバモスとその仲間のスタッフの友だちのように肩をたたいて誘いました。

 後でアリさんと話しましたが、やはりこの鬼というジェスチャーが、牛ジェスチャーに見えたのです。なぜこれがいけないかというと、牛は角がありますね。この角を表現する、アルゼンチンでは相手に「角」ジェスチャーをするときは口に出して言わなくても侮辱する、ノノシルという意味です。穏やかではないですが、そして直接の意味は奥さんが別の人と浮気をしたので、この男性は「寝取られた男」という意味になります。

 角は頭の上にあるので自分は見えないから、最後にあることがわかる、という意味だったり、その昔スペインでは罪で見せしめに町中を引きずり回されたというのが起源だとか。即ち、この角ジェスチャーをすることで、「奥さん怒っているゾ」ではなく、「奥さんは他の男といっしょにいるぞ」と相手を侮辱する意味になってしまったのです。

 折しも出張中でしたので、かわいそうなアリさんは一瞬血の気がひいたようです。しかし、あまり言葉は通じなくても毎日一緒にいる仕事の仲間としてやっている日本人スタッフの方が、彼を侮辱している訳はないので、その場で怒らずにコトなきを得ました。が、喧嘩になってもおかしくないし、こちらの人にはドッキリしますので、注意しましょう、ということです。。。。別途、日本語では、ふがいないヤツ、男じゃないはずかしい人だ、とこのジェスチャーで表現します。

 無意識に出るジェスチャーは気をつけるに越したことはないでしょう。