連載エッセイ181:田所清克「ブラジル雑感」その14 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ181:田所清克「ブラジル雑感」その14


連載エッセイ 178

ブラジル雑感 その14

執筆者:田所清克(京都外国語大学名誉教授)

この号では、「ブラジルの食文化再考について」のその6を紹介する。ミナスジェライスの料理を取り上げる。

「―数あるミナス料理:ケイジョ・ミナス(その17)―」

 ミナス料理は枚挙にいとまがない。牧畜業が盛んこともあって、ケイジョ•ミナス (Queijo Minas:ミナスチーズ) はこの地域の象徴ともなっている。ケイジョ•ミナスと言えば、まず頭に浮かぶのは、要冷蔵で直径10センチ前後の白い円盤形や円筒形の塊のものだ。薄い塩味にミルクの甘味を感じる淡白な味で、木綿豆腐に弾力を加えたような食感がある。常温で置かれて熟成が進んだようなタイプのチーズにも、同じ名前がつけられている。デザートにする場合は、薄く切ったチーズとゴイアバーダ (goiabada) を一緒にたべるのが、ブラジル風。この組み合わせは「ロミオとジュリエット」(Romeu e Julieta) と呼ばれる。

* 本記事は田所清克・大浦智子著「食彩の世界―ブラジルのローカルカラー豊かな郷土料理」(100回開催記念特別号) [In: Mare Nostrum、地中海文化研究会、2004年] から抜粋した。


ケイジョ・ミナス(webより転載)

「―数あるミナス料理:チーズパン(その18)―」

ケイジョ・ミナスと並んでミナスを代表する食べ物は、Pão de Queijo、すなわちチーズパンだろう。

ブラジル全土でサイズも味も微妙に違うチーズパンを食べることができるが、ミナスのものは格別。スーパーでは、冷凍食品から簡単に作られるチーズパンの素まで売られている。餅のような食感は、マンディオカの澱粉であるポルヴィーニョ (polvinho) が作り出す。


チーズパン [久保平亮氏提供、Tiradentesにて]

「―数あるミナス料理:フバー、トゥトゥー・デ・フェイジョン(その19)―」

数多あるミナス料理の中で、今回はフバー (fubá) とトゥトゥー・デ・フェイジョン (tutu de feijão) を取り上げる。フバーは、種子から胚芽と皮を取り除いて挽いたトウモロコシの粉。その呼び名はアフリカのバントゥー諸語の一つに由来すると言われている。ケーキ、ビスケット、スープ、ポレンタなどに、小麦粉のように利用される。例えば、ブラジルでは焼きケーキの一つとなっているボーロ・デ・フバー (bolo de fubá) などは、トウモロコシの粉を使った典型だ。スパイスの一種、エルバ・ドーセ (erva doce) [日本語でいうフェンネル] の風味が効いて美味そのもの。

 ミナス料理では、付け合わせのアングー (angu) を作る材料としても知られている。

 ちなみに、トウモロコシやその粉を使った料理がブラジルではよく食べられる。であるから、トウモロコシ料理のレシピ集のみならず、専門のトウモロコシ料理店もある。
 翻って、トゥトゥー・デ・フェイジョンは名の通り、フェイジョン豆を煮つぶしてマンディオカの粉を混ぜた料理。腸詰めであるリングイッサ (linguiça) やゆで卵が盛り付けられる。


フバー(webより転載)


ボーロ・デ・フバー(webより転載)


アングー(webより転載)


トゥトゥー・デ・フェイジョン(webより転載)

「―数あるミナス料理:フランゴ・コン・オーラ・プロ・ノービス、ヴァカ・アトラーダ(その20)―」

今回取り上げる料理もミナスでは定番のもの。フランゴ・コン・キアーボ (frango com quiabo) [これまたミナスの典型的な料理の一つで、鶏肉とオクラをミナス風の味で煮込んだ料理。付け合わせにご飯とアングーが添えられる。アングーとは、フバーに水分を混ぜて作られたピューレ状の食べ物。皿の上で白米や料理のスープと混ぜながら食べられる]。この料理に使われるオクラがオーラ・プロ・ノービス (ora-pro-nóbis) に替わったのがフランゴ・コン・オーラ・プロ・ノービス (frango com ora-pro-nóbis)。

オーラ・プロ・ノービスは、匍匐(ほふく)性の植物で、ミナスの特定の地域では家庭で栽培されている。ツヤのある濃緑色をしており、そのネバネバした成分はさながら“ワカメ”を連想させる。これが鶏肉料理に使われるのである。

ちなみに、その名の語源はラテン語で、敬虔なカトリック文化の伝統が感じられるミナスならではの気がして、お祈りの言葉が表現されている。オーラ・プロ・ノービスには豊富にタンパク質が含まれているそうだ。

 もう一つはヴァカ・アトラーダ (vaca atolada)。リブロース [牛のアバラ肉] とマンディオカをミナス風の味、すなわち、ニンニク、香味野菜、唐辛子、塩などで煮込んだもの。アトラーダが「泥の中にはまった」と意味するが如く、肉の浸かったスープはドロっとしている。


フランゴ・コン・オーラ・プロ・ノービス(webより転載)


ヴァカ・アトラーダ(webより転載)

「―その他のミナス料理:前半(その21)―」

ミナス料理は数多あり、今回紹介するのもまたその一例。ポルトガルのパン (pão)、なかんずくトウモロコシで作ったブローア (broa) は最高に美味しく、この国を訪ねた時はいつも食べていた。このブローアの類いのパンを日本で見かけないのはなぜだろう?

このトウモロコシの粉フバーが原料で、スパイスの一種エルバ・ドーセで作られたビスケットが、ブローア・ミネイラ (broa mineira) である。他方、バンバー・デ・コウヴェ (bambá de couve) もミナス地方の日常の料理かもしれない。フバーが混ぜられたスープで、刻んだコウヴェ [ケール] が入っている。

ミナスでは、お菓子のドーセ・デ・レイテ (doce de leite) もお馴染みのもの。牛乳と砂糖で作られ、見かけはキャラメルのようだが、口の中でボロボロと溶けていく。クリーム状のものもあり、日本のカスタードクリームのような面持ちで、さまざまなお菓子に利用される。


ブローア(webより転載)


ブローア・ミネイラ(webより転載)


バンバー・デ・コウヴェ(webより転載)


ドーセ・デ・レイテ(webより転載)

「―その他のミナス料理:後半(その22)―」

サンパウロ州を代表する料理としてフェイジョン・トロペイロを取り上げたが、同名の料理はミナスではフェイジョン・トロペイロ・ミネイロ (feijão tropeiro mineiro) と言い、いわゆるミナス風の炒り卵を混ぜたものである。豚肉のロースや脂身の揚げ物、リングイッサ [腸詰め]、コウヴェの炒め物などが添えられる。長旅には欠かせない、エネルギーのもとになる一品であることは言うまでもない。

 さらにミナス料理となると、カンジッカ (canjica) を細かく砕いたカンジキーニャ (canjiquinha) で作られた、トウモロコシのお粥も有名である。
 他にもミナス特有の料理はあるが、この辺りに留め、次回からは南部の食文化に論及の対象を移したい。


フェイジョン・トロペイロ・ミネイロ(プレート上部)[久保平亮氏提供]


リングイッサ [久保平亮氏提供]


カンジキーニャ(webより転載)