1959年1月1日にカストロによる革命成立後、多くのキューバ人が米国に逃げた。バチスタ政権の悪徳警官だったバトルを含む復讐心に燃える者達は1960年にCIA(米政府中央情報部)の支援で侵攻作戦に参加しピッグス湾に上陸したが壊滅的敗北を喫し、バトルは捕虜となって服役した後米国に亡命した。潜り賭博の差配から始まり麻薬売買へと手を広げ、ライバルや裏切り者との容赦ない抗争、報復によって、ついにはキューバ・マフィアのボスにまでのし上がった。彼らキューバ・マフィアは “ザ・コーポレーション”と恐れられる巨大犯罪組織になり、米国の裏社会にあっては一大勢力に拡大したが、一方ではCIA等米国政府と連携し、カストロ暗殺計画にも関与した。
キューバ危機、ケネディ大統領暗殺を経てオバマ大統領の電撃的キューバ訪問に至る間、冷戦期の重大事とキューバ系マフィアは常に何らかの関係にあり、カストロ政権への憎悪、キューバへの愛国心からを原動力に、共産主義勢力と戦い、その“聖戦”を資金面で支援するという大義を口実に賭博、麻薬、違法薬物等の組織犯罪を行うことを正当化し、米国全土で猛威を振るったバトルとその一族の巨大な犯罪組織の栄枯盛衰、暴力の応酬、金の流れを克明に追っていて“事実は小説より奇なり”の衝撃的な内容が続く。著者は既に『マフィア帝国 ハバナの夜』(訳書 さくら舎 2016年)等の著作もある作家、ジャーナリストで、実に膨大かつ綿密な取材によって書き上げたクライム・ノンフィクションの大作である。
〔桜井 敏浩〕
(峯村利哉訳 早川書房 2022年2月 400・416頁 各3,000円+税 ISBN978-4-15-210086-3/978-4-15-210087-0)
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年 秋号(No.1440)より〕