連載エッセイ192: 新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町から」その6 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ192: 新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町から」その6


連載エッセイ 189

「南米コロンビア・雲と星が近い町から」その6
コロンビアが世界に誇る竹建築

執筆者:新井 賢一(Andes Tours Colombia代表 ボゴタ在住)

先日、建築デザイン関係の国際学会が首都ボゴタで開催され、日本からプレゼンターとしてお客様が来訪されました。スペイン植民地時代から南米大陸きっての文化都市として名高かったボゴタは今でも各種学会が数多く行われる都市です。学会セッションの間でボゴタ近郊などをご案内した中で、通常の観光ツアーでは滅多にご案内する事はない場所もご紹介しました。

 こちらはボゴタの西端にある一見すると何気ない橋です。実はこの橋、約3,000本の「竹」を使用しています。竹と言っても日本で多くみられる孟宗竹ではなく、太いものでは直径30cm前後にもなる肉厚の「グアドゥア(Guadua)」と呼ばれる極太の竹を組み合わせたものです。橋の長さは約45m・総重量は約130トンにも達するこの橋は竹を使用した橋としては世界最大級のもので、歩行者・自転車専用橋として使用されています。

 2003年に完成したこの竹製の橋を設計したのは竹建築では世界的権威・コロンビア人建築家シモン・ベレス(Simon Velez)が手掛けたものです。彼は天才肌の建築家で、全て頭の中でイメージして設計図を一切作らないとの事です。コロンビア国内にはこのベレスが手掛けた巨大な竹建築物があちこちに点在しています。その中で首都ボゴタではこの竹の橋が彼の代表的建築物です。橋に近づくとそのスケールの大きさに圧倒される事は間違いありません。

ベレスが手掛ける竹建築物は殆ど全てが極太のグアドゥアを決して地面に対して垂直に立てるのではなく、傾斜や曲線を付ける事でお互いに引っ張り合って強度を保たせるという、これまた天才的な感性を持っています。画像をご覧頂くとお分かりになりますが、橋全体が若干湾曲しているのは、竹自体は何本も束ねていますがこれを地面に対して水平にしてしまうと強度が弱く橋が途中から折れてしまう為、あえて山のように湾曲させているのがベレスの設計する建築物の特徴です。実際、彼以外の者が同じように竹で橋を作ったものの、傾斜・湾曲の技術を用いなかった為崩落してしまったようです。

 実際橋を渡り内部に立てば世界でも唯一無二の天才的竹建築家・シモン・ベレスの天才的感性を間近に感じる事が出来ます。極太の竹・グアドゥアは何本も束ねる事で強度的には鉄骨に相当する程らしいのですが、その竹を直角ではなく斜めに組み合わせ、更に土台の部分を微妙に湾曲させる手法、これはもう単なる建築物の域を超える「芸術作品」と言えます。実際には鉄筋を咬ませて強度は保っているものの、約130トンにも及ぶ重さで竹を使用した橋が完成から20年経っても崩落していないのですから驚異的です。

 新国立競技場その他、日本における木を多用した建築物の設計では現在第一人者である隈研吾氏は建築資材としてのコロンビアの竹・グアドゥアの魅力を早くからご存知だった方です。その隈氏から「コロンビアの竹を使いたい」とのお申し出があり当地から約400本を日本へ初めて輸出したのが2006年でした。日本へ初上陸したグアドゥアは熊本市にある老舗醤油蔵・濱田醤油様に届けられ現在に至ります。

当時の記事がこちらです。
http://jpn-col.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-148d.html

その後2014年に講演の為当地ボゴタを訪問された隈氏とこの地で再会する事が出来ました。

コロンビアを含めGuadua竹は中米から南米にかけて見られる竹の種類です。コロンビアのGuaduaはコーヒー生産地帯と同じ標高帯・約1,300m前後の地で多く見かけます。現地コーヒー地帯では建築資材として多用される事が多く、その中に前述のシモン・ベレスが手掛けた巨大・且つ芸術的価値のある巨大な建築物も多数現存しています。日本では建築基準法の関係からか竹を建築資材として使用する事は出来ないようですが、コロンビア国内・特にコーヒー地帯は地震多発地帯でもある為数十年に一度大地震により被害を受ける事から、容易に手に入るグアドゥアを使った建築物が多いのはその為でもあります。
建築・設計の分野に従事されている方々には是非ともコロンビアが世界に誇る竹建築物の数々をご覧頂きたいです。竹建築物は世界中に数多く存在しますが、その中でも特に前述の天才的竹建築家シモン・ベレス設計の大規模建築物は日本から時間とお金をかけても見る価値がある、それはもう素晴らしいものです。