現在ラテンアメリカで最も注目を集めている政治指導者といえば、何といってもベネズェラのチャベス大統領であろう。先住民とアフリカ人の血を受け継ぎ、西部の貧しい家庭に生まれ、野球選手を夢見ていたが、教育を受けるために陸軍士官学校に入り軍人としての道を歩むかたわらシモン・ボリバールの思想の研究に打ち込む。1992年に、ペレス政権打倒のクーデタを起こすがあえなく失敗、投獄されて除隊を条件に釈放され政治活動を開始、1998年の選挙で大統領に当選したが、その後ボリバールの思想を受け継ぐ“ボリバール主義”を標榜し、ポピュリズム的手法で主に貧困層の熱狂的な支持を得て、外交面では親カストロ、反米を公言して、ボリビアのモラレス大統領やペルーのウマラ大統領候補、それに財政支援を通じてアルゼンチンのキルチネル大統領に大きな影響を与えている。
本書は、チェ・ゲバラの娘であるアレイダが、チャベスとの長時間の対談を通じて、彼の生い立ち、政治信念形成の過程、1992年と2002年の失脚寸前までいったクーデターのいきさつ、カストロとの関係、内政と外交などをつぶさに聞き取ったもの。
〔桜井 敏浩〕
(作品社 215頁 2006年6月 2,000円+税)