『反米大統領 チャベス —評伝と政治思想』 本間 圭一、『革命のベネズエラ紀行』 新藤 通弘 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『反米大統領 チャベス —評伝と政治思想』 本間 圭一、『革命のベネズエラ紀行』 新藤 通弘 


『反米大統領チャベス —評伝と政治思想』 本間 圭一

読売新聞の元リオデジャネイロ特派員によるベネズエラのチャベス大統領の評伝。

西部の小さな町の小学校教師の息子として生まれ、野球に熱中した少年時代、プロ野球選手を目指してカラカスへ出るために陸軍士官学校に入学したが、次第に政治意識に目覚め、1992年に政党政治への抗議から空挺部隊中佐として反乱を起こしたが失敗して服役、退役を条件に釈放後に政治活動に邁進し、ついに1998年大統領に当選した。しかし、就任後も既存政党、上中流層、軍上層部などの既得権益層を中心にした反チャベス勢力の反撃によって、2002年には経済界と軍の一部が結託したクーデタが勃発して身柄を拘束され、あわやという場面があり、その後もゼネストや大統領罷免国民投票などの危機があったが、国民の大きな割合を占める貧困層を取り込むことにより、巧みに乗り切ってきた。

反チャベスの立場を貫く米国に対抗し、キューバとともにラテンアメリカの反米勢力を結集しようという外交が、少なからざる途上国政府や大衆から喝采を浴びており、近年の世界的な資源価格の高騰は、石油による財政収入が増大したことで貧困者層施策の大盤振る舞いを可能としているが、チャベスの貧富の格差是正を目指す「革命」はなお進行しているとしている。

チャベス大統領が、報じられるように巧みに大衆を扇動する“独裁者”なのか、“貧困者の救世主”なのかは、歴史的評価はまだ先になるというが、その手法が近い将来ベネズェラに大きな政治的、財政的、経済的な問題を起こす可能性があるという負の側面にはあまり分析がなされていない。

(高文研2006年10月254頁1700円+税)

なお、このほか 『革命のベネズエラ紀行』新藤 通弘がある。

「ベネズエラに関する報道が、世界においても日本においても不正確なのはどういうことであろうか。日本の場合、『しんぶん赤旗』や、雑誌『前衛』などを除き、一般にはベネズエラの情勢に対する曲解、誤解、無視、敵視が際立っているように思われる」と述べているとおり、徹底的にチャベス大統領の言い分を中心にベネズエラの内政、外交を解説している。

チャベス政権の弱点としては「汚職と官僚主義」を挙げ、また「強力な革命(チャベスのいうボリバール革命)政党」が不在であるとの説を紹介しているが、政策とその手法についてはほぼ全面的に肯定していて、本書もまた正確さを欠いているように思われてならない。

(新日本出版社2006年5月189頁1400円+税)