連載レポート105:桜井悌司「投資国としてのコスタリカとウルグアイ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート105:桜井悌司「投資国としてのコスタリカとウルグアイ」


連載レポート105

投資国としてのコスタリカとウルグアイ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

米国のマイアミ・ヘラルドのラテンアメリカ関連ニューズの名物コラムニストであるオッペンハイマー氏は、2022年8月5日付けで「米中間の緊張の高まりにより、より多くの企業がラテンアメリカに工場を移転する可能性がある」というタイトルの記事を執筆した。その内容は、ナンシー・ペロッシ下院議長が台湾をきっかけに米中間の緊張が高まっていることから、多国籍企業がサプライチェーンの確保のため、工場を中国からラテンアメリカに移転する動きが活発化するというものである。

同氏は、続いて次のように言っている。「しかし、残念ながら、このチャンスを最大限に生かそうとするラテンアメリカ諸国はほとんどないだろう。この地域の指導者の多くは旧態依然としたポピュリストであり、外国からの投資を誘致する努力をほとんどしていない。多くの場合、国粋主義的なレトリックと過剰な規制で外国投資を遠ざけている。」

さらに、オッペンハイマー氏は、中国に代わる工場として自らをアピールしている国は、退任したコロンビアのイバン・ドゥケ大統領と、最近新たに設立されたドミニカ共和国、コスタリカ、パナマより成る「民主主義における発展のための同盟」を外資誘致に積極的な数少ない国として挙げている。

確かに、オッペンハイマー氏が主張するように、現在のラテンアメリカの政治を見ると、悲観的にならざるを得ない。ベネズエラ、キューバ、ニカラグア等は社会主義政権であるし、ボリビア、アルゼンチン、ペルー、チリ、コロンビア等は左派政権である。ブラジルもルーラ前大統領が勝利した。一般的に言って、左派政権は、外資に対し敵対的なケースが多く、企業の国有化等について言及することもある。これらはすべて、外資誘致に繋がらないと言えよう。一国を発展させるには様々な方法があるが、最も効率的な方法は、外資を誘致することである。

筆者は、40年以上、ジェトロに勤務し、貿易・投資の振興業務に携わってきた。その間、チリ、イタリア、ブラジル政府に対し、「いかに外資を誘致するかについて」アドバイスを行ってきた。上記のような環境にあって、外資によるラテンアメリカへの投資は楽観的になり得ないが、ここでは2つの国に希望を見出したい。一つは中米の小国、コスタリアであり、もう一つは南米の小国ウルグアイである。これら2ヶ国での投資誘致の成功は、他のラテンアメリカにも少しは影響を与えることになろう。なお本稿の内容は、筆者個人の意見である。

「コスタリカ」

10月22日の日本経済新聞は、米国のインテル社が半導体のサプライチェーンを構築するために、2023年までに約10億ドルの投資をすると発表したと報じている。当初の計画の3倍ということである。米中対立にあって、半導体の国内生産回帰の戦略が見える。インテル社は、21年にアリゾナ州に、22年1月には、オハイオ州に工場を建設するが、コスタリカにも工場を建設することになった。コスタリカはラテンアメリカ諸国の中で、最もうまく外資導入に成功している国である。インテル社の進出は、1998年のことだが、誘致に当たっては、投資誘致機関のCINDE(コスタリカ投資開発庁)が熱心に勧誘した。筆者もジェトロ時代CINDEを訪問し、幹部と意見交換を行ったが、極めて優秀な人材であったことを覚えている。CINDEは1982 年に設立された民間団体であるが、フリーゾーンからの収入に頼っていることもあり半官半民の組織である。 コスタリカは、インテルの進出によって、ハイテク電子産業クラスターを形成し、この30年で、電子製品を中心としたハイテク輸出国に変貌した。コスタリカはさらに、2022年8月に、環太平洋連携協定(TPP)に加盟申請したのも注目に値する。

筆者は2022年10月に、比較的最近に発表された7つの世界ランキングの調査をラテアメリカ協会のホームページに掲載したが、コスタリカとウルグアイはラテンアメリカの中では圧倒的に好成績である。例えば、コスタリカは報道の自由度(8/180)、Gender Gap Index(12/146)、民主主義指数(20/167)はすべて世界の20位以内だし、幸福度指数(23/146)、平和度指数(38/163)、腐敗指数(39/180)、人間開発指数(58/191)も上位に入っている。(世界ランキング最新7調査に見るラテンアメリカの主要国の立ち位置」を参照のこと。

「ウルグアイ」

2022年10月27日、ジェトロで、訪日したウルグアイのルイス・ラカジェ・ポウ大統領を迎えてのウルグアイ経済フォーラムが行われた。当日は、大統領とアスセナ・アルベレチェ経済財務大臣の2人が演壇に立ち、ウルグアイの経済事情や投資環境を説明し、質問があれば、他の閣僚も回答するという極めてスマートなセミナーが行われた。ウルグアイはコロナ禍やウクライナ情勢にも拘らず、2021年は、4.4%の経済成長を遂げ、22年は4.8%と予測されている。外資も順調に導入している。小国ながら大統領自ら外資誘致を積極的にアピールするのは素晴らしいことである。トップセールスは最も効果のある手法である。さらにウルグアイは、コスタリカと同様、2022年12月1日に、環太平洋連携協定(TPP)に、メルコスル加盟国の反発にも関わらず、加盟申請を行った。

前述のランキングを見るとウルグアイも好成績の国である。民主主義指数(13/167)や腐敗度認識指数(21/146)では世界有数の国であるし、幸福度指数(30/146)も高い。報道の自由度(44/180)、平和度指数(46/163)、人間開発指数(56/191)でも上位に位置する。Gender Gap Index(72/146)については、中位となっているが、上位に位置する可能性を秘めた国である。

これらの2国がうまく外資導入に成功すれば、他のラテンアメリカ諸国の投資誘致のモデルになるに違いない。

「小国ゆえに国内市場が小さいが外資誘致は可能か?」

外国企業が投資先を選ぶ場合、その国のポテンシャリティを分析する。それら要因の中には、市場の大きさ、資源の有無、各種インセンティブの有無、FTAやEPAの存在、フリーゾーンの存在、優秀な労働力、行政手続きの問題等々がある。

従来、市場の規模とか天然資源の有無が投資を決定するうえで大きな比重を占めた。ただ今の時代は、市場経済の時代であり、自由貿易協定の影響力が強い。輸出品目も、必ずしも重厚長大な商品ばかりでなく、エレクトロニクスや加工食品等嵩張らず軽量な商品も多いし、ソフトウエアーの輸出も考えられる。少し視点を変え、知的水準の高さ、人材面の豊富さや政治経済の安定度にもっと着目すべきと考える。

OECDが行っている最新のPISA調査(学習到達度調査)の最新報告2018年(コロナの影響でそれ以降実施されていない)によれば、15歳を対象に、読解力、数的リテラシー、科学的リテラシーを調べるもので、対象国79ヶ国のうち、ラテンアメリカではチリが1位で42/79で、ウルグアイは2位で 48/79 コスタリカは3位で49/79となっている。

コスタリカもウルグアイも一人当たりのGDPもそれぞれ11.106ドル、17,020ドルと近隣諸国に比較し高い。そのことは即、賃金が高くなることを意味する。しかし他国と比べ、教育水準が高く、IT、IoT、SNS等についての専門家が多いということになれば話は異なるであろう。

参考までにコスタリカとウルグアイの対照表を下記に紹介する。

コスタリカとウルグアイの対照表(外務省、ジェトロ等からのデータを参照した)

  コスタリカ ウルグアイ
人口 509万人 20年世銀 349万人 21年世銀
面積 51,100平方キロメートル 17,600平方キロメートル
GDP総額 64.3憶ドル 21年世銀 59.3億ドル 21年世銀
一人当たりのGDP 12,509ドル 21年世銀 17,020ドル 21年世銀
経済成長 21 7.6  22見通し 3.2%

世銀

21 4.4% 22見通し 4.8%

世銀

失業率 19.6% 20年中銀 10.4% 21年世銀 
貿易額 輸出額 116.8憶ドル 

輸入額 144.6憶ドル

20年 PROCOMER

輸出額 96.1憶ドル 21年中銀

輸入額 102.8憶ドル

外貨準備高    
カントリー・リスク S&P   2022/3 安定的 B

フィッチ 2022/3 安定的 B

S&P     2022/4 安定的 BBB

フィッチ2022/6 安定的 BBB

フリーゾーン 26のフリーゾーンが存在する

6 Zonas francas

14 Free trade zones

1 Zona economica especial with China

5 Others

国内11カ所のフリーゾーンがある。大国ブラジルとアルゼンチンに囲まれ、バッファー・ステートとして、物流の拠点化を目指している。
自由貿易協定の締結状況 ラテンアメリカ諸国、米国、EU,EFTA,中国、韓国等とのFTA締結。2022年8月、環太平洋連携協定(TPP)への加入申請。 MERCOSURへの過度の依存を避け、対外経済関係の多角化を積極的に進めている。中国とのFTA交渉の開始。2022年12月1日、環太平洋連携協定(TPP)への加入申請。
その他 2021年OECD加盟。2013年太平洋同盟オブザーバー。軍隊を持たず、環境を重視するグリーン・エコノミーを推進。 2国間経済協力関係のための合同委員会の設置。2021年外交関係100周年。税関相互支援協定締結。租税条約の発効。ワーキングホリデイの開始。デジタル分野での官民協力。

「では両国は具体的に何をなすべきか?」

1)コスタリカ外務大臣・貿易大臣に対する提案

2022年11月7日にコスタリカのアルノルド・アンドレ外務大臣、マヌエル・トバル貿易大臣とラテンアメリカ協会との会合があった。どうすれば、コスタリカと日本の経済関係がより緊密になるかというテーマであった。席上、筆者は次のような提案を行った。

*日本人や日本人ビジネスマンに残念ながら、コスタリカについての十分な情報を持っていない。実際に行って見ないと、コスタリカの魅力が理解できない。そこでいくつかの根気のいる中長期の提案をする。

*コスタリカ観光をより推進すること。日本の観光関係のジャーナリストや主要な旅行代理店を招待すること。

*日本から貿易や投資誘致ミッションを派遣することは、なかなか難しいので、コスタリカとのビジネスをカバーするニューヨーク、メキシコシテイ、パナマ在住の日本企業に働きかけ、コスタリカを訪問してもらうよう働きかける。

*コスタリカの大学に働きかけ、日本からの留学生を歓迎する大学のリストを作成し、リストを基に、日本側の大学に当たり、マッチングをする。現在、日本の7大学とコスタリカの3大学合計7件の交流があるのみである。

*姉妹都市関係の強化 現在日本とラテンアメリカの姉妹都市は約80件あるが、コスタリカは2件で、岡山市とサンホセ市(1969)、気仙沼市とプンタアレーナス市(1978)。コスタリカの持つ魅力からすると日本側からの要望も出るものと思われる。

*対日輸出については、コスタリカが自信を持って輸出可能と判断する商品を3~5品目選び、日本の有力な展示会に参加する。伝統的にコスタリカはジェトロの機能をうまく使ってきた。例えば、FOODEXという日本の最有力の国際食品・飲料見本市がある。コスタリカは、2000年から2019年までの20年間に、ジェトロの支援により、17回にわたり出展し、43企業が参加した。

*日本企業や外国企業の誘致を図るには、コスタリカの投資環境を知らせることが必要。
・毎年少なくとも1回できれば2回、日本に投資誘致のためのミッションを派遣する。
・それを少なくとも3年は続ける。投資誘致は忍耐と継続性が大切。
・ミッションは必ずしも大人数でなくてもよく、1~2名でもよい。例えば、貿易大臣、次官、PROCOMER(コスタリカ貿易庁)の代表、CINDEの代表等に訪日してもらい、ジェトロ、JOI、IDB、UNIDO、コスタリカ大使館などと一緒に東京や大阪で投資誘致セミナーを開催する。1980年代、日本経済が絶好調の時、米国の各州から知事を団長とする日本企業誘致ミッションが多数訪日した。後で振り返ってみると、熱心にミッションを派遣した州には多数の日本企業が進出したことを覚えている。

2)ウルグアイの場合

ウルグアイの場合も、コスタリカと同様、日本人や日本人ビジネスに十分知られていない。ただ隣にアルゼンチンやブラジルがあるため、ビジネスや旅行でそれらの国々から駐在員やその家族が訪問することは多い。ただ日本から距離的に最も遠い国であるので、日本からなかなかやって来ない。ウルグアイには現在UNESCOに登録されている世界遺産は、コロニア・サクラメントやフライ・ベントス産業景観等3カ所である。コスタリカはちなみにココ島国立公園やグアナカステ保全地域等4カ所であり、エコツーリズムを好むツーリストにとっては天国と言えよう。

したがって、日本人や外国人によく知ってもらう必要がある。幸いウルグアイは、日本人や日系人が多いブラジルやアルゼンチンに隣接しているので、最初のターゲットは彼らであろう。眞銅前大使の時代に、ジェトロが組織して、日本、ブラジル、米国等からの参加者で構成される投資誘致ミッションを派遣したが、優れたイニシアテイブだと言えよう。

ウルグアイの場合、近隣諸国と比べ賃金水準が高い。とりわけ製造業となると、賃金水準に惹かれ、近隣国のパラグアイに投資する企業もあると思われる。したがって、パラグアイとの差別化を十分に考える必要がある。加えて、日本企業を誘致する場合、生活環境を考慮することも必要であろう。例えば、ウルグアイでは、おいしい牛肉は賞味できるが、日本食材が入手できず、しっかりとした日本料理店がないことなどは、世界最高レベルの食生活を謳歌している日本人にとっては決定的な要因ではないものの不利に働くことは予想できる。

ウルグアイの大学と日本の大学との留学交流は、ウルグアイ・カトリック大学が、早稲田大学、上智大学と、ウルグアイ共和国大学が宮崎大学と東京外国語大学と留学交流協定を締結している。姉妹都市協定は存在しない。ここ数年、ウルグアイ・ワインの対日輸出、ウルグアイ牛肉の対日輸出の解禁等明るい情報が少なくない。ウルグアイはジェトロの支援を受けて、2001年から19年までに計8回にFOODEX(国際食品・飲料見本市)に参加し、ワイン、牛肉、酪農製品、チーズなどを展示した。今後さらに輸出商品を絞り込んで、セールスプロモーションを強化すべきである。今回、前述のように、ラカジェ・ポゥ大統領がトップセールスで日本企業の投資を呼びかけたが、一度で終わらず、毎年1回以上、少人数でもよいので、少なくとも3~5年継続して、日本企業誘致セミナーを東京等で開催してもらいたいものだ。

「参考までに」

過去に投資誘致について執筆したレポート一覧を下記に紹介する。

ブラジルの輸出振興機関・投資誘致機関を考える その1 2019年1月
https://nipo-brasil.org/archives/14426

ブラジルの輸出振興機関・投資誘致機関を考える その2 2018年12月
https://nipo-brasil.org/archives/14510

ラテンアメリカの貿易振興機関・投資誘致機関の概要 ① 2018年9月
https://nipo-brasil.org/archives/13928

ラテンアメリカの貿易振興機関・投資誘致機関の概要 ② 2018年9月
https://nipo-brasil.org/archives/13979

ラテンアメリカの貿易振興機関・投資誘致機関の概要 ③ 2018年10月
https://nipo-brasil.org/archives/14063

投資誘致とブラジル  2016年4月
https://nipo-brasil.org/archives/9003

ブラジルの新イメージ浸透作戦 2015年12月
https://nipo-brasil.org/archives/8655

日本で投資誘致セミナーを成功させる秘訣 -ラテンアメリカの投資誘致関係者に対するアドバイス  以下ラテンアメリカ協会ホームページ 研究所を参照のこと

・日本語版    2018年3月
・スペイン語版  2018年4月
・ポルトガル語版 2018年4月

以   上