『コスタリカの歴史—コスタリカ高校歴史教科書』 世界の歴史教科書シリーズ? イバン・モリーナほか - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『コスタリカの歴史—コスタリカ高校歴史教科書』 世界の歴史教科書シリーズ? イバン・モリーナほか


コスタリカは、1948年に軍隊廃止宣言、1983年には永世中立を宣言した。1980年代まで続いた中米戦争の終結に尽力して、1987年にアリアス大統領がその功でノーベル平和賞を受賞しており、1950年以降中断することなく民主主義を実践してきたラテンアメリカ唯一の国として知られている。

本書は世界の小・中・高校の歴史教科書を紹介するシリーズの最新刊で、ラテンアメリカでは『ブラジルの歴史』という優れた高校教科書に次ぐものである。なぜこのシリーズで、早々とラテンアメリカの小国を取り上げたのか?については、こういったコスタリカの特色への、編者の並々ならぬ思い入れがあるように思われる。

紀元前4000年頃の最初の人々の足跡からスペインによる征服と植民地時代、1821年の中米独立、1848年のコスタリカの独立から、経済、産業、社会が近代化していく中で、経済、政治の混乱、隣国からの侵略、内戦など、幾多の困難を経て、21世紀に入った現代に至るまでを扱っている。

日本のマスメディアが、よく世界でも際立った非武装中立、平和と、エコツーリズム実践に見られるように環境保全取り組みに熱心な国としてしばしば取り上げるコスタリカだが、その政治、経済、社会の歴史は混乱、危機の連続であり、現在においても多くの問題を抱えていることを、率直かつ具体的に記述している。同じ出版社から出ている『コスタリカを知るための55章』と併せて読めば、大いに理解を深めることができるだろう。〔桜井 敏浩〕

(明石書店264頁2007年4月2800円+税)

『ラテンアメリカ時報』2007年夏号 No.1379 掲載