『俺の歯の話』 バレリア・ルイセリ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『俺の歯の話』 バレリア・ルイセリ


著者は1983年メキシコシティ生まれ、メキシコ国立自治大学卒、コロンビア大学博士課程で比較文学を学んだ作家。現実にあるメキシコ市近郊の町にある清涼飲料水製造のフメックス社の管理やセミナーなどの現実と著者のフィクション文学が交差し、読む者を翻弄して結末へと導く“コラボレーション小説”とも言える実験小説。

「ハイウェイ」と呼ばれる競売人サンチェスは、幼少の時から取るに値しない物を何でも収集してきたが、フメックス社の工場で警備員の職に就いて思わぬ事件に遭遇するが何とか事なきを得て昇進、危機管理等のセミナーを受けるよう命じられた時に妻となる女と知り合い、彼女の意向で仕事を辞めて競売人の道を目指すことにした。米国で師匠の下で修行を積んでメキシコに戻り競売業を始めるが仕事はそうないところから、教会の神父から慈善オークションの開催を頼まれ、これまで集めた秘蔵の品々を出すことにする。

それぞれの章が独立した物語となっており、発端が工場に隣接する現代アートギャラリーと工業団地住人との文化交流に始まり、全編をラテンアメリカ文学を知った者なら馴染みのある固有名詞が埋め尽くしているなど、独特の特色がある。

〔桜井 敏浩〕

(松本健二訳 白水社 2020年1月 215頁 2,800円+税 ISBN978-4-560-09738-0 )