オスカー・ルイス、ルース・M・ルイス、スーザン・M・リグダン江口信清訳
1959年のキューバ革命以前から、カリブ海地域最大規模のスラムがあったが、1959年の革命後にその多くが整理された。しかし、貧困の中に生まれ育った人々が、キューバ革命、1961年の米国支援の亡命キューバ人によるプラヤ・ヒロン侵攻失敗と米国との断行、それ以降今日まで続く米国の執拗な経済封鎖などは、庶民の生活にも大きな試練となった。
本書は、こういった時代を生きてきた4人の極貧層の男の生活史であり、個人の内面とともに家族や社会、革命政府との関係を、克明に綴っているが、スラムと貧困の文化が不即不離の関係にある他のラテンアメリカ諸国と異なり、スラムは部分的に残っていても、基礎生活物資の配給、無償の医療・教育などキューバ社会主義体制によって人々の多くは貧困の文化から抜け出すことに成功しているという証言は興味深い。
オスカー・ルイスといえば、メキシコのスラムのある家族を追った名著『サンチェスの子供たち』(みすず書房 1969年刊)があるが、ルイス夫妻が1969年から70年代はじめにかけてキューバのスラムのフィールド調査を行ってまとめたこの大部の原書が、カリブ海地域の農村や貧困の文化の研究を続けてきた訳者を得て出版されたことは、大いに多としたい。
(明石書店 778頁2007年4月9800円+税)