全世界170カ国の福祉医療の現状を、一人あたり所得と乳幼児死亡率で見ると、相関していることが判る。ほとんどの貧しい国ではそれら死亡率は高いことを示しているが、唯一の例外はキューバである。米国と対立して1962年以来その厳しい経済封鎖を受けており、1990年代初頭のソヴィエト連邦・東欧社会主義陣営の崩壊で支援者を失って、経済的には困窮の窮みにあったキューバだが、その医療システム下で米国より乳児死亡率は低く、福祉医療の崩壊が危惧される日本、英国が学ぶべき点が多いと筆者はいう。デング熱やエイズなどに効果的な独自に開発した医薬品や進んだ治療技術をもち、しかも癌治療から心臓移植に至るまで、国民の医療費負担は不要という体制を維持していながら、他のラテンアメリカやアフリカ各国に大勢の医療チームを派遣しているほど、厚い医療保健の人材育成など、目を見はるキューバ医療の実態を紹介している。
著者には、これまで同じ出版社から首都ハバナで『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』、『1000万人が反グローバリズムで自給・自立できるわけ』のキューバ・レポートを出しており、長年のキューバ通いで多くの知己にインタビューしている。政府に近い立場の人たちからの取材が多いためか(社会主義国であり、当然だが)、若干キューバ身贔屓的な記述が散見されるが、日本も本気で少ない予算で効果を上げる医療を目指すために、種々参考になる事例が多く取り上げられている。
(築地書館267頁2007年9月2000円+税)